誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに、そんな「待つ時間」をテーマにして選曲&言葉を綴っていただきます。
午後の光が硝子の壁面をすべり落ち、無数の影が交差する公園通りで、ひとつの問いだけが静かに浮かんでいた
幸せってなんだろう?
その響きは答えを急がない
街の深部に触れるための、透明な針のように漂うだけ
声は輪郭を持たないまま空気に溶け、雑踏の粒子と混ざり合う
此処では全てが仮設で進行してゆき
名前や感情も、昨日の熱も明日の不安も、光の点滅に均()されてゆく
足音はいつしか拍動となり、赤と青の信号さえも律動の一部に
問いは繰り返されるほどに意味を削ぎ落とし、やがて震えだけが残る
幸福は名詞ではなく、振動
触れようとした瞬間にほどける、淡い周波数
巨大なスクリーンに流れる祝祭の残像
裏側で風は乾き、人々の輪郭は滲み、誰かの孤独と誰かの歓喜が同じ温度で溶け合う
確かなものを握ろうとする指先から、光はこぼれ落ちて
曖昧さに身を委ねたときだけ、胸の奥で小さな予感が返ってくる
交差し続ける街のリズムのなかで、きみと僕は一瞬、刹那的な問いに身を預ける
ただ柔らかな余白となり、内側で静かに明滅して
想うのは、幸福は輪郭を持たず、それでも確かに、ここに漂っているということ

千葉雄喜『幸せってなに?』(2025年、ワーナーミュージック・ジャパン)

