心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、極めて大きな精神的衝撃を伴う出来事によって生じる精神疾患です。PTSDは、適切な治療により症状が軽減する可能性があります。治療の中心は精神療法ですが、症状に応じて薬物療法も行われます。本記事では、PTSDの治療で使用される薬の種類や効果、副作用、服用する際の注意点などを解説します。

監修医師:
前田 佳宏(医師)
島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。
PTSD治療と薬物療法

PTSDの主な治療法を教えてください
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、極めて大きな精神的衝撃を伴う経験によって引き起こされる疾患です。PTSDの原因となる出来事を心的外傷的出来事(トラウマ)と呼びます。
PTSDの治療は、このトラウマに焦点を当てた精神療法が第一選択として推奨されています。精神療法とは、対話を通して、患者さんが自分の考え方や感情を見直し問題を理解することで、対処法をみつけ克服しようとする治療法をいいます。
PTSDにおける精神療法は、安全な環境でトラウマと向き合い、反応や思考のパターンを整理します。少しずつ不安や恐怖を軽減し、トラウマに対応できるようになることを目指します。代表的な精神療法の手法には、次のようなものがあります。
持続エクスポージャー療法
認知処理療法
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)
PTSDの代表的な治療法として、精神療法のほかに薬物療法があります。薬物療法は医師の判断によって、それぞれの患者さんの状態に合わせて選択されます。
PTSD治療において薬物療法はどのような位置付けですか?
PTSD治療は精神療法が中心であり、薬物療法はその補助的な位置づけとされています。現在日本では、いくつかの薬剤がPTSDに対する保険適用があり使用されています。それぞれの患者さんの症状や経過に合わせて、適切な薬剤を医師が処方します。
PTSD治療に用いられる薬の種類と効果、副作用

PTSDの治療に用いられる薬の種類を教えてください
PTSD治療に用いられる薬の代表的なものは、抗うつ薬です。特にこのなかでも、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という種類の薬剤が使用されるケースが少なくありません。SSRIは、脳内のセロトニンと呼ばれる神経伝達物質の働きを調整して、気分や不安をコントロールする効果があります。
また、抗うつ薬の一種であるSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)や抗精神病薬が使用されることもあります。そのほか、個別の症状に応じてさまざまな薬剤が検討されます。例えば、不眠に対しては睡眠薬、不安や緊張が強い場合には、一時的に抗不安薬が使われることもあります。
PTSDの治療薬の種類別に効果を教えてください
SSRIは、脳内のセロトニンという神経伝達物質の濃度を高めることで効果を発揮します。セロトニンは不安や恐怖などの感情の調整に関わり、トラウマへの過剰な反応を抑制し、PTSDの症状を軽減させる働きがあります。具体的には、フラッシュバックなどの再体験症状、常に緊張状態が続く過覚醒症状の軽減です。また、トラウマを想起させるものを極端に避ける回避行動を改善する効果も期待されます。
以下で説明する治療薬は、いずれもPTSDへの保険適用はありませんが、個別の症状に対する医師の診断に基づいて使用される薬剤です。SNRIは、セロトニンに加えてノルアドレナリンという神経伝達物質の働きも調整します。ノルアドレナリンは意欲や活力に関わります。このためSNRIは抑うつ気分、意欲の低下などに対しても効果が期待されますが、個人差があります。
抗精神病薬は、幻覚や妄想、興奮状態などを落ち着かせる薬剤です。抗精神病薬のうち、従来の抗精神病薬より副作用が出にくく、不安や気分の落ち込みにも効果が期待できる新しい世代の薬剤を非定型抗精神病薬と呼びます。PTSDではこの非定型抗精神病薬が使用されるケースがあります。
睡眠薬は、寝つきが悪い、途中で目が覚める、などの不眠に効果が期待できます。また、抗不安薬は、強い不安や緊張を一時的に和らげる作用が期待できます。
PTSDの治療薬にはどのような副作用がありますか?
SSRIの代表的な副作用は消化器症状です。吐き気、胃部不快感、下痢などがみられる可能性があります。また、このほかにも頭痛やめまいなどの症状も挙げられます。これらの症状は一過性のことが少なくありませんが、服用している間続くこともあります。SNRIの場合はこれに加えて、ノルアドレナリン作用に関連した副作用が起こりえます。具体的には、便秘、お口の渇き、食欲低下、軽い動悸などです。
また、注意が必要な副作用に、賦活(ふかつ)症候群(アクチベーションシンドローム)が挙げられます。これはSSRIやSNRIの服用開始時や増量時にみられる可能性があり、具体的な症状は次のとおりです。
不安
焦燥感
興奮
不眠
衝動性
易刺激性(刺激に過敏に反応してイライラしやすくなる)
こうした賦活症候群を考慮し、抗うつ薬は少量から開始し徐々に増量するなどの対応が取られます。また、急な薬の中止でも離脱症候群と呼ばれる病態が生じることがあります。主な症状はめまい、耳鳴り、しびれ感、頭痛、吐き気、不安などです。
このほかに、一部の抗不安薬は依存を形成しやすいとされており、慎重に使用されます。
PTSDの薬はどの程度の期間服用しますか?
PTSDの薬は、効果が現れるまでに時間がかかるとされています。SSRIの効果がみられ始めるのは、服用を開始してから少なくとも1週間から2週間ほどといわれています。さらに、効果が出たと実感できるようになるには、4~6週間ほどの時間が必要です。一方で12週間後には症状が改善する患者さんが少なくなく、50%ほどは症状の軽減が期待できるといわれていますが、効果には個人差があります。
参考:『PTSD の薬物療法ガイドライン:プライマリケア医のために』(一般社団法人 日本トラウマティック・ストレス学会)
このため少なくとも4~6週間は経過をみながら薬を継続します。ガイドラインでは、効果が確認された後も、症状の改善を維持するために、少なくとも1年間継続することと記載されています。なお、必ずしもガイドラインどおりではなく、個々の患者さんの状態に応じて、診療する医師の判断で調整が行われる場合があります。

