信也は「警察」「コンプライアンス」という言葉を交え、美代子の行為が「侵害」であることを、理路整然と告げる。ぐうの音も出ない美代子はついに…。
夫が毅然とした態度で向き合う
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「美代子さん。先日からのお申し出ですが、娘をあずけるつもりはありません」
信也は、はっきりと言い切りました。
「…あらあ? でも、聡子さんは一人で大変そうだし……」
「大変かどうかを決めるのは、私たち家族です。それに、人見知りがはげしい時期の子どもを、同意もなく、他人がムリやり母親から引きはなすのは、教育でも親切でもありません。ただ、恐怖をうえつける行為です」
美代子さんは絶句しました。
「恐怖」という、つよい言葉を使われるとは、思っていなかったのでしょう。
すべてをきちんと伝えてくれた夫
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「いやあ…そんな大げさな…。私はよかれと思って」
「その、よかれと思ってが、妻を追い詰めています。お風呂の外から声をかけるのも、プライバシーの侵害です。警察に相談するレベルのことですよ? 自治会長をされている美代子さんなら、そのあたりのコンプライアンスは、よく、ご存知ですよね?」
「警察」という言葉に、美代子さんの顔がサッと青ざめました。
地域の顔である彼女にとって、世間体は何よりも大事なはずです。
「それに」と、信也は続けました。
「車にエンジンをかけて冷やしているのは、娘の命を守るためです。それなのに、"虐待" 呼ばわりされるのは、親として、到底、受け入れられません。今後、同意なく娘にふれたり、ムリなあずかりの提案をしたりするのは、控えていただけますか。私たちは、私たちの責任で娘を育てていますから」
美代子さんはパクパクと口を動かしましたが、信也のあまりの正論に、
「そうね……ええ?……そこまで言われるとは……」
と、力なくつぶやくしかありませんでした。
「では、失礼します。いつも地域のために動いてくださっていることには、感謝しています。これからも、程よい距離でお付き合いいただければさいわいです」
信也は頭を下げると、運転席に乗り込みました。

