妊娠8か月の春香は、夫・智也の不倫を知る。一度は、慰謝料請求で決着したはずだったが、智也は逆ギレして、女の元へと「かけおち別居」を強行し…。
「理想の夫」は偽物だった
「ねぇ、赤ちゃん。パパはねえ、明後日、お外で別の人のお祝いをするんだって。信じられる?」
鏡に映る自分の姿を見つめ、私はおなかをやさしくなでた。
現在、妊娠8か月。本来なら、夫婦で出産準備に追われ、ベビーウェアを選んだり、名前を考えたりと、しあわせの絶頂にいるはずの時期だ。
それなのに、今の私の心にあるのは、夫への愛情ではなく、冷徹な復讐心だけ…。
私の名前は春香、28歳。夫の智也(30歳)とは、結婚して3年になる。
「春香、今日は体調つらそうだね。ゆっくり休んでて? 僕は仕事が立て込んでるから、夕飯は適当に済ませるよ」
数か月前まで、智也はそんなやさしい言葉をかけてくれる、「理想の夫」だった。
だが、今ならわかる。その過剰なほどのやさしさは、すべて、うらでコソコソと女と会うための罪悪感のうら返し、あるいは、私を家の中にしばりつけておくための、目かくしだったのだ…。
不倫が発覚し、すぐさま慰謝料を請求
不倫の発覚は、妊娠がわかったばかりの半年前。
きっかけは、拍子抜けするほどシンプルで、かつ古典的なものだった。
急に増えた休日出勤、風呂場にまで持ち歩くようになったスマホ。そして、画面ロックの解除番号の変更。
「バカね。かくすなら、もっと徹底的にやればいいのに」
私はまよわず探偵に調査を依頼した。
結果は、まっ黒。相手は取引先の若い女だった。発覚当初、私は奈落の底に突き落とされたような絶望をあじわった。
あたたかな家庭のイメージが、ガラガラと音を立ててくずれていく…。何度も、何度も夜中に一人で泣いた。
しかし、私はただ、泣き寝入りするような女ではない。
証拠がそろった段階で、智也と女を徹底的に追い詰め、弁護士を通じ、女に慰謝料請求したのだ。
「これが合意書です。今後、智也と一切の接触をたつこと。もし、一度でも会えば、違反金として、一回につき、10万円を支払うこと。いいですね?」
女は青ざめ、ふるえる手でサインをし、一回目の慰謝料を支払った。
智也もその時は土下座をして謝罪し、「二度と会わない、心を入れ替える」と誓った。
もし、ここで彼が本当に反省をし、女との縁を切っていれば…。まだ、家族としての情けをかける余地もあったかもしれない。
だが、智也の「誠意」は、あまりにもかるかった。 水面下で2人の関係は続いていたのだ。

