「自分大好き!」だったのに「自分が嫌い」に

――妊娠中のつらさについて夫さんにはあまり打ち明けなかったとのことですが、夫さんへの不満もなかったということでしょうか?
弘中綾香さん(以下、弘中) いや、私も不満はありました!(笑) 出産後、まだ子どもが本当にちっちゃい頃は授乳していたし、母子は離れられない状況でした。……任せたいけど任せられないみたいな感覚でした。仕方がないと今ではわかります。父親がおのずと蚊帳の外になる時期があるのは。ただ。当時は「なんで母親ばっかり?」となる気持ちがありました。
子どもが大きくなるほどに分担できることも増えてくるので、「あのとき、そんなにピリピリする必要はなかったかも」と、今は思います。
――妊娠出産となると、女性はさまざまな局面で“当事者”ですもんね。
弘中 「なんでこんな不公平に作ったんだろう?」と神様を恨んだこともあります。(笑)
――新生児期も、今回のエッセイに「毎日泣いていた」と書いています。
弘中 覚えているのが「今の自分、嫌いだな」という心境で泣いていたことです。「自分大好き!」な私がこんなふうになるなんて珍しいんです。

――「自分がイヤ」と思ったのはなぜでしょう。
弘中 新生児育児って1日中ずっと家にいて、やることに追われている感覚があって。3時間ごとに授乳して、泣いたらなだめたり、寝かしつけたり、それだけで24時間がすぎてしまって……予定していたことが何もできない。起きたことに対処するだけで、1日が終わって。「今日1日、私、なにをしていたんだろう」と思うことがつらくて。
何もかも初めてのことばかりで上手にできないことばかりだし。こんなんでこれからやっていけるのかと自信がなく、後ろ向きな気持ちになっていました。
――それまでとのギャップがありすぎて、なかなか受け入れ難いですよね。
弘中 仕事をしているときは「あ~終わった~!今日も頑張った!」という達成感があったのですが、育休中は「今日1日なにもしてない……。え……? 私、いる意味ある?」と思ってしまって。社会から取り残されている感じもあるし、自分の存在意義が見つけられない感覚にも陥りました。育児は24時間でオンとオフの切り替えもないですしね。寝られないし。精神的にも追い詰められていたんだと思います。
――仕事がとてもお好きなんですね。
弘中 すごく好きです。今の仕事は自分の得意なことだと思うし、皆さんに楽しんでもらったり、同僚に「仕事を頼んでよかった」という言葉をもらうたびに、充足感を得られていたんです。番組を作り上げる一員として、自分の役割を全うすることに「私がいる意味」を見出せていた。仕事から離れることでそれが一気になくなってしまったことが、辛かったし、変化として受け入れられるまでに時間がかかりました。
「自分が自分であること」が揺らいでしまうような感覚があって、それがすごくつらかったんですよね。今まで当たり前だと思っていた仕事のありがたさにも気づきました。
産後は超ハッピーモードになると思っていた

――『たぶん、ターニングポイント』に書かれた、「母だけを生きることが自分にとってしんどかった」という一文がとても印象的でした。
弘中 私も妊娠・出産するまでは、産後は超ハッピーモードになると思っていたんです。「一秒もわが子と離れたくない!」みたいな。でも実際どうだったかといえば、「これまで歩んできた自分の人生も大事だし、これからも大切にしたい。」という気持ちも大きくて。
もちろん子どもはかわいいし、最高なんですけど、それと同じくらい自分の人生も最高なので(笑)、どっちもやりたいと思いました。
これについては人それぞれのとらえ方だと思うので、いち個人の経験談として書いたまでです。良い悪いもなく、「自分はどう生きていきたいか」というシンプルな自分への問いだと思うんですけどね。
――そんな状況を打破したタイミングは、いつごろ訪れましたか?
弘中 4月に仕事復帰すると決めて、なんとか保育園への入園も決まり、カウントダウンが始まったあたりからですかね。「とりあえず4月までがんばろう」と思うことで割り切って過ごすことができました。

