草なぎ剛の芝居はなぜ鬼気迫るものを感じるのか 「僕の生きる道」「罠の戦争」から表現力の凄さに迫る

草なぎ剛の芝居はなぜ鬼気迫るものを感じるのか 「僕の生きる道」「罠の戦争」から表現力の凄さに迫る

草なぎ剛「俳優ドラマ特集」
草なぎ剛「俳優ドラマ特集」 / (C)TVer

Netflix映画「新幹線大爆破」での好演も記憶に新しい俳優・草なぎ剛が、10月13日(月)にスタートとなる新ドラマ「終幕のロンド ―もう二度と、会えないあなたに―」(毎週月曜夜10:00-10:54、フジテレビ系)で主演を務める。草なぎがカンテレ制作の連ドラで主演を務めるのは、今作で9回目。その中から今回は、TVerの俳優特集で無料配信されている「僕の生きる道」「罠の戦争」の2作の見どころを紹介する。

■草なぎのストイックな役作りがリアリティを与えた「僕の生きる道」

草なぎが主演、橋部敦子が脚本を手がけた「僕の生きる道」(2003)は、のちに「僕と彼女と彼女の生きる道」(2004)、「僕の歩く道」(2006)へと続く“僕シリーズ”の第1作目。ある日突然、余命1年の末期がんであることを宣告された主人公が、残された時間を精一杯生きようとする姿を描いたヒューマンドラマで、最高視聴率20%を超えるヒットとなった。

草なぎ扮する中村秀雄は平凡な高校教師。進学校で生物を教えているが、決して仕事熱心ではなく、生徒からは舐められている。密かに思いを寄せる同僚のみどり(矢田亜希子)にも中途半端なアピールしかできず、「真面目でいい人だけど、小さくまとまってる」とフラれる始末だ。そんな空虚に毎日を生きていた秀雄が余命を宣告されるところから始まる本作。最初は自暴自棄に陥り、自ら命を絶とうとする秀雄だが、失敗したことで生まれ変わったかのように残りの人生と懸命に向き合っていく。

■草なぎ剛、過剰な感情表現を排するが圧倒的なリアリズムを生み出す理由

末期ガンを患う秀雄が衰弱していく過程を演じるにあたり、草なぎは徐々に減量。最終的に体重を9キロ落としており、終盤で秀雄が心臓マッサージするシーンではあばらが浮き出ていた。身体的なアプローチが精神にも影響を及ぼすのだろう。

草なぎは過剰な感情表現を排しているが、その演技は鬼気迫るものを感じさせる。そんな草なぎの芝居が物語に圧倒的なリアリズムを生み出すと同時に、秀雄の“生”をまざまざと浮かび上がらせていた。いつ終わりを迎えるのか、誰にも分からない人生をどう過ごすべきかについて考えさせられる作品だ。なお、綾瀬はるかや市原隼人、浅見れいななど、今見ると豪華すぎる生徒役キャストたちのフレッシュな姿にも注目してほしい。

■「罠の戦争」人情溢れる議員秘書からの闇堕ち演技に戦慄

2023年1月期に放送された「罠の戦争」は、草なぎ主演のドラマ「銭の戦争」(2015)、「嘘の戦争」(2017)に続く“戦争シリーズ”の第3弾だ。後藤法子が脚本を手がけ、草なぎ扮する家族を傷つけられた議員秘書・鷲津亨の壮絶な復讐劇を描いた。

鷲津は、衆議院議員・犬飼孝介(本田博太郎)の有能な第一秘書。20年前に路頭に迷っていた自分に手を差し伸べてくれた犬飼に恩義を感じ、献身的に仕えてきた。そんなある日、息子が歩道橋から転落し、意識不明の重体に。何者かに突き落とされた可能性もあったが、犬飼から事故として処理するように圧力がかかる。その裏切りに激しい怒りを感じた鷲津は、息子を瀕死の重体に陥れた事件の犯人と、それを隠蔽しようとする政治家たちへの復讐を決意するのだ。

鷲津が知略を尽くして巧妙な罠を仕掛け、悪しき政治家を失脚させていく様が痛快な本作。展開も非常にスピーディーで、話がなかなか進まないストレスとは無縁である。その中で特筆すべきは草なぎが体現する静かな闘志。「僕の歩く道」と同様、草なぎの演技には抑制が効いている。にもかかわらず、その佇まいや表情からふつふつと沸き上がるような怒りが伝わってくる表現力は流石の一言だ。

また鷲津は復讐の過程で、パワハラ被害に遭っている女性秘書、過労死で兄を失った新人秘書、夫から虐げられている専業主婦など、自分と同じく強者に踏みつけられた弱者に手を差し伸べる。本来、復讐劇とは縁遠い人情味を物語にもたらせられるのは草なぎだからこそだろう。そんな鷲津が弱者に寄り添うために大きな権力を求めた結果、その魔力に取り憑かれて良心を失っていく終盤の展開は心苦しい。闇堕ちというワードが頭を過ぎる草なぎの光を失った目や不敵な笑みにゾクゾクさせられること間違いなしだ。

■文=苫とり子

※草なぎの「なぎ」は弓へんに旧字体の前+刀が正式表記

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