ウォルター・クレイン—浮世絵と西洋の古典に影響を受けた繊細な表現
ウォルター・クレインが手がけた「トイブック」の『シンデレラ』(1873年)。このページは舞踏会のシーンで、中央のブルーの衣装をまとっているのがヒロイン。, Public domain, via Wikimedia Commons.
19世紀後半のイギリスで活躍したウォルター・クレイン(Walter Crane, 1845〜1915)は、日本の浮世絵から影響を受け、輪郭線と面による独創的な挿絵を制作しました。アーツ・アンド・クラフツ運動(※3)にも関わっていたクレインは、手工芸を重視し、木版でつくられた浮世絵に強い興味を持ったそうです。
『シンデレラ』にもその影響が表れており、あえて陰影をつけず、鮮やかな色彩で表現しているのが印象的です。また、工業化が始まる前の時代に芸術性を見出したクレインは、挿絵にも古典的なモチーフを登場させました。
たとえば、登場人物の服装の流れるようなひだや、シンデレラの鼻筋の通った横顔は、ギリシャの壺に描かれた女性像を思わせます。
近代に出版された絵本でありながら、手作業による繊細さと古典的な雰囲気をまとった作品です。
(※3)19世紀末から20世紀の初頭に、イギリスと欧米諸国で起こった国際的な芸術運動。ウィリアム・モリス(1834〜1896)が中心となり、産業革命によって衰退した手工芸や装飾芸術の再興を目的に活動しました。
アーサー・ラッカム—細密なペン画が生み出す幻想的な情景
アーサー・ラッカムのギフトブック『シンデレラ』(1919年), Public domain, via Wikimedia Commons.
イギリスの挿絵画家アーサー・ラッカム(Arthur Rackham, 1867〜1939)は、その卓越した技巧で、挿絵の水準を高めることに貢献した人物です。彼の独自の表現は、後世まで受け継がれ、有名なウォルト・ディズニーも、ラッカムに影響を受けたひとりだと言われています。
黒や褐色のペンの輪郭線と、落ち着いた色調で描き出す幻想的な世界は、当時から多くの人々を魅了してきました。
ラッカムが手がけた『シンデレラ』は、人物の表情や衣服、部屋の内部まで細かく描写され、ヒロインの感情まで伝わってくるようです。
もうひとつ特徴的なのが、シンデレラの周りを囲む切り絵風のキャラクターです。本書は、上の画像のページ以外、そのほとんどがシルエットで描かれています(※4)。細密画とシンプルな表現、抑えられた色味とアクセントカラーのコントラストによって、ヒロインの身の上と華やかな世界を見事に映し出した挿絵本です。
(※4)第一次世界大戦後、物価が高騰し、豪華な挿絵本は急速に衰退していきます。書物のコスト削減を迫られたラッカムは、ほとんどのページをシルエットで表現する方法を考えました。困難な状況下にあっても、彼は挿絵本が生き延びる道を模索しました。
