ペロー版の『シンデレラ』—魔術と弾圧の間で生まれた「名付け親」
ウォルター・クレイン『シンデレラ』(1873年)。フェアリー・ゴッド・マザーが登場するシーン。, Public domain, via Wikimedia Commons.
魔法が使える仙女(フェアリー・ゴッド・マザー役)が登場する『ペロー童話集』の「サンドリヨンまたは小さなガラスの靴」(1697年)。
仙女とは、簡単な医術の心得があったり、薬草に詳しかったりと、良い意味での「魔術」を扱う人を指します。
なぜ、仙女でありヒロインの名付け親でもあるのかというと、魔術の厳しい取り締まりが関係しています。
16世紀末〜17世紀初頭のヨーロッパでは、キリスト教会の主導のもとに、善悪に関わらず魔術を弾圧していました。
童話も取り締まりを避けることはできず、仙女をキリスト教の洗礼儀式に立ち会う名付け親にすることで、存在を保てたのではと言われています。(※5)
そして、ペロー版の『シンデレラ』は、魔法の力で玉の輿になったのではなく、後見人である名付け親の力によって、立派に嫁入りができたというストーリーになりました。
フェアリー・ゴッド・マザーは、「魔法使いのおばあさん」というイメージがありますが、民衆が信仰する魔術とその弾圧の間で生まれた人物だったのです。
(※5)参考:森義信『メルヘンの深層』講談社、1995年、p38
グリム版の『シンデレラ』—自然信仰と古代のならわしを反映
アメリカで活躍した画家エリナー・アボットの『シンデレラ』(1920年)。ハシバミの木と小鳥に願い事をするシーン。, Public domain, via Wikimedia Commons.
いっぽう、ハシバミの木と小鳥がヒロインを救済するのが、グリム版の特徴です。
キリスト教が広まる以前のヨーロッパにおいて、自然界には人智を超えた魔術的な力があると信じられていました。
グリム童話では、シンデレラの母親が亡くなった後、再婚した父親が、町の縁日でお土産を買ってくると娘たちに話します。
ところが、シンデレラは、贅沢品ではなく、帰り道に父の帽子に最初にふれた小枝を持ってきてほしいと頼みます。それがハシバミの枝だったのです。
母の墓の上に枝を植えると、やがて立派な樹木となり、彼女が願い事をするたびに、小鳥たちが望んだものを空から落としてくれるようになりました。魔力を持つ自然が人間を助けてくれるというメッセージが込められたストーリーです。
また、ハシバミの木が願いを叶えてくれるくだりに、ゲルマンで古代から行われていた法律行為を重ねる見方もあります。(※6)中世のゲルマンでは、土地所有権を移転する時に、所有者から新しい取得者に、土塊や枝を手渡す決まりがあったそうです。
つまり、父親からシンデレラにハシバミの枝を渡したことで、母親の財産が譲られたとも考えられるのです。シンデレラが欲しいものを何でも手に入れられた背景には、古代のならわしが関係しているのかもしれません。
(※6)参考:森義信『メルヘンの深層』講談社、1995年、p.42-43
挿絵からたどる『シンデレラ』とその時代
この記事では、「挿絵本の黄金時代」に活躍した3人の画家、ウォルター・クレイン、アーサー・ラッカム、エドマンド・デュラックの『シンデレラ』をご紹介し、それぞれの魅力を解説しました。同じストーリーでも、画家によってまったく異なる世界観を味わうことができます。
また、童話が生まれた時代にふれると、慣れ親しんだ『シンデレラ』を新しい視点で楽しむきっかけにもなるでしょう。挿絵を入り口に、童話の世界とその背景に流れる歴史や文化を味わってみてくださいね。
《参考文献》
・今井良朗編・著『絵本とイラストレーション 見えることば、見えないことば』武蔵野美術大学出版局、2014年
・大瀧啓裕『アーサー・ラッカム 改訂版』河出書房新社、2005年
・高橋義人『グリム童話の世界—ヨーロッパ文化の深層へ』岩波書店、2010年
・平松洋監修『挿絵画家アーサー・ラッカムの世界 新装版』KADOKAWA、2019年
・平松洋監修『挿絵画家アーサー・ラッカムの世界 新装版』KADOKAWA、2019年
・正置友子、今井良朗、田中竜也、占部敏子、山根佳奈『絵本はここから始まった ウォルター・クレインの本の仕事』青幻舎、2017年
・森義信『メルヘンの深層』講談社、1995年
《参考記事》
「アーツ・アンド・クラフツ運動」と「日常のデザイン」──現代にも通ずるウィリアム・モリスの理想とは?(美術手帖)
https://bijutsutecho.com/magazine/series/s71/26965
