●「卒業証書」の提出を拒める理由
ただし、今回、「卒業証書」は弁護士が保管していると報じられています。
弁護士が業務で預かっている「他人の秘密に関するもの」については、一定の場合差し押さえなどを拒むことができます(刑事訴訟法105条)。
そこで、「卒業証書」を差し押さえるために、弁護士事務所などに立ち入ることは難しいと思われます。
この点が争われた裁判例で有名なものとしては、カルロス・ゴーン氏の弁護人の事務所に対して検察官が令状にもとづいて強制的に捜索を行ったことに対し、弁護人が国家賠償請求を行ったケースがあります(東京地裁令和4年7月29日参照)。
東京地裁は、弁護士事務所への立ち入りについて厳しく(=立ち入りが認められない方向で)判断し、捜索を押収拒絶権の趣旨に反するとしています。
●証拠がない=有罪にならないのか?
そうすると、「卒業証書を確認できないのだから、証拠がなくて有罪にはならないのでは?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、必ずしもそうとは限りません。
報道(テレビ静岡、2月14日)によると、県警は公職選挙法違反、虚偽公文書作成、偽造公文書行使、有印私文書偽造、偽造私文書等行使、地方自治法違反の6容疑・8つの事件で捜査しているとされています。
これらを分かりやすいようにおおざっぱに分けると、「卒業証書」に何が書かれているかが問題となる犯罪と、そうでない犯罪に分けられます。
1)「卒業証書」の存在や、書いてある内容が直接に問題とならない犯罪
たとえば、本件で問題となっている地方自治法違反の内容は、正当な理由なく出頭を拒んだ、記録を提出しなかった、などです(地方自治法100条3項。6カ月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)。
これらは有罪かどうかを決めるうえで「卒業証書」という物証がなければならない、という種類の事件ではありません。
したがって、「卒業証書」がなくても有罪となることはありえます。
なお、「正当な理由」があるかどうかの判断はまた別に行われることには注意が必要です。
次に、虚偽の経歴を公表した、という点についてです。
報道されたものとしては、報道機関に虚偽の経歴を伝え掲載させた公職選挙法違反(公職選挙法235条1項、2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)、市の広報誌に虚偽の経歴を記載した虚偽公文書作成(刑法156条)、その広報誌を発行した偽造公文書行使(同158条1項)です。
これらは、広報誌などに虚偽の学歴を載せた、などが問題となっているのであって、「卒業証書」によって虚偽の経歴を伝えたわけではありません。
そうすると、「卒業証書」に書いてある内容などが直接に問題となるわけではなく、「卒業証書」がなくても有罪になりうるでしょう。
2)「卒業証書」の内容が問題となる犯罪であっても、有罪にはなりうるが‥
では、「卒業証書」を偽造したり、関係者に開示した、というもの(有印私文書偽造・偽造私文書等行使。刑法159条1項・161条1項。3カ月以上5年以下の拘禁刑)はどうでしょうか。
これらの犯罪では、まさに「卒業証書」と主張する書面にどういうことが書いてあったのかが問題となりますので、一見、「卒業証書」がなければ立証ができず、有罪にもできないようにも思えます。
しかし、裁判では物証だけでなく、「人証」(人の証言)も証拠になります。
関係者が「卒業証書を見せられた」と公判廷で証言し、その内容や状況が具体的に語られ、裁判所がその証言を信用できると判断すれば、「卒業証書」の原本がなくても、偽造や行使などの事実が認められ、有罪となることはありうるでしょう。
つまり、「卒業証書」がない=必ず有罪にできない、というわけではなく、供述や他の証拠次第です。
ただ、本件では、「卒業証書」という文書を見せられた議員らは、チラッと見せられただけという趣旨の証言をしているようです。
記載内容が全く明らかにならなければ、この点の立証が困難になる可能性は否定できません。
以上のように、「卒業証書」が弁護士の手元にあり差押えを拒んでいるからといって、今回の各容疑で必ず無罪になるというわけではありません。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

