決戦の日は、女の誕生日。春香は2人の母と共に、彼らが予約した「高級フレンチ」へと向かう。手には、離婚届とふくれ上がった請求書。智也がすべてをうしなう瞬間を確信しながら、春香は心地よい緊張感の中で合図を待つ。
義母の協力に感謝
「春香さん、準備はいい? 私、この日のために、とっておきのお洋服を新調しちゃったわ」
義母がちゃめっ気たっぷりに笑いながら、私に声をかけてくれました。
普通なら、嫁の不倫問題に義母が加担するのはめずらしいかもしれません。
でも、義母は、
「自分の息子が、こんな卑劣なことをするなんて…親の責任でもあるわ」
と、全面的に協力してくれたのです。
「プレゼントの準備も万端よ」
私はカバンの中の封筒を確かめました。
中身は2種類。 一つは、不倫相手に向けた「接近禁止命令違反」に伴う90万円の請求書。
そして、これまでの不貞行為に対する、慰謝料の最終通告書。もう一つは、智也に向けた離婚届と、これからの養育費、慰謝料をこまかく計算した公正証書の原案です。
おなかの子にも決意を伝える
「怒りを通り越すと、人間ってたのしくなってくるんですね」
私は口元に笑みをうかべて義母を見ました。
「そうね、春香さん。これは、春香さんのあたらしい人生をスタートさせるためのお祝いだもの!」
義母は力強くそういうと、口端をきゅっと結んで、覚悟を決めたかのように言いました。
「夫とも話して…もうあの子は、息子とは思わないって決めているの。夫は、春香さんの件が落ち着いたら、絶縁状を送るって言ってるわ。文字通りあの子はすべてをうしなうのよ」
私たちは顔を見合わせて、それぞれの決意に深くうなずきました。
ディナーの予約は19時。
私たちは少し早めに店に入り、彼らから死角になる、けれど全体が見わたせる席を確保しました。
「智也、どんな顔をするかしら」
私はおなかの赤ちゃんに心の中で話しかけました。
(見ててね。ママが、あなたを傷つけるものを全部追い払ってあげるから)
お店のシャンデリアがまぶしくかがやいています。
この美しい空間が、あと数時間で修羅場に変わる…。そのカウントダウンを、私は心地よい緊張感とともにたのしんでいました。

