がんと診断された患者の98%が「仕事を継続したい」と願っている――この数字が示すのは、病を抱えながらも自分らしく生きたいという切実な思いです。こうした願いを支えてきたのが、医薬品のイノベーションにほかなりません。しかし今、米国発のグローバル薬価政策の変革が、日本の医薬品アクセスに大きな影響を及ぼそうとしています。2025年10月に開催された「EFPIA DAY 2025プレスイベント」では、EU・日本双方の視点から、この転換期をどう乗り越えるかが議論されました。
Stefan Oelrich(シュテファン・エルリヒ)
European Federation of Pharmaceutical Industries and Associations (EFPIA) 会長、ドイツ・バイエル社経営委員会委員、医療用医薬品部門代表。1989年にドイツ・バイエル社に入社。ベルギー、米国、フランスなどで要職を歴任したのち、バイエルのヘルスケア及びダイアグノスティクス事業の責任者を経て、米国・バイエルの婦人科領域事業シニアバイスプレジデント及びジェネラルマネジャーに就任。2011年から2017年までサノフィ社にてマネジングディレクター、事業責任者、エグゼクティブ・バイスプレジデントに就任。2018年11月にドイツ・バイエル社経営委員会委員、医療用医薬品部門代表に帰任。2025年6月よりEFPIA会長に就任。
岩屋 孝彦(いわや たかひこ)
一般社団法人 欧州製薬団体連合会 (EFPIA Japan) 会長 / サノフィ株式会社 代表取締役社長。1990年旧厚生省入省。14年間の国家公務員としての期間、旧大蔵省主税局や日本貿易振興会、医政局経済課、健康局総務課等に携わり、 2004年から製薬会社に勤務。ジョンソン・エンド・ジョンソン、ヤンセンファーマにてさまざまな要職を務める。2019年9月にサノフィ株式会社スペシャルティケア部門の日本の事業部長として入社、2020年1月に代表取締役社長に就任。同年8月には欧州製薬団体連合会(EFPIA)Japan副会長に就任し 、2021年9月から会長として従事。
患者が望む「病と共に働く」という選択
がん患者が初期診断時に思うこととして、仕事を継続したいと答える人が98%に上るといいます。実際に、仕事を持ちながらがん治療を受けている人は2022年時点で7万人おり、過去に比べて増加傾向にあります。
岩屋会長は「病を抱えながらも自分らしく生き、働き、誰かに支えられ、社会に貢献する時間を大切にしたい人々を応援したい」と語ります。こうした患者の願いを実現してきたのが、医薬品イノベーションの進歩です。
患者団体との対話の中では、患者の生活の質(QOL)の変化もイノベーション評価に取り入れるべきだという声が上がっているといいます。医療費をコストとして抑制する対象と捉えるのではなく、就労継続や介護予防を通じた生産性向上に資する「将来への投資」と考えるべきだという意見も寄せられています。
健康と経済成長のつながり
医薬品イノベーションがもたらす価値は、個人の生活改善にとどまりません。平均寿命を1年延伸すると国内総生産(GDP)が4%増加するというデータがあり、健康度の向上が生産性向上につながることも示されています。
エルリヒ会長は、医薬品イノベーションこそが社会の健康と成長を支える基盤だと強調します。がんから希少疾病まで、治療の進歩が人命を救い、生活の質を高め、より長く生きることを可能にしてきたと述べました。
こうした観点から、社会保障は一律に削減すればよいわけではなく、経済活動に対するポジティブな効果も考慮した上で議論されることが重要だと岩屋会長は指摘します。

