
ドラマ「冬のなんかさ、春のなんかね」(毎週水曜夜10:00-11:00、日本テレビ系)で主演を務める杉咲花。本作では繊細な会話劇の中で揺れる心情をリアルに体現し、視聴者を物語へと引き込んでいる。子役時代から着実にキャリアを重ねてきた彼女の歩みを振り返りながら、その俳優としての魅力に迫る。
■子役から主演女優へ…表現者としての成長
子役時代に梶浦花の名で活動していた杉咲は、2011年に研音へ移籍。以降、俳優として本格的に歩みを進めていく。「桜蘭高校ホスト部」や「妖怪人間ベム」などに出演し、若手ながらも目を引く存在として注目を集めた。そんな彼女の転機となったのが、2016年公開の映画「湯を沸かすほどの熱い愛」だ。繊細でありながら芯の強さを感じさせる演技で、第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・新人俳優賞を受賞。名実ともに“実力派”としてその名を広く知らしめた。
さらに、NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(2016年放送)では、ヒロイン・常子(高畑充希)の妹・美子役を好演。姉と衝突しながらも家族を思うまっすぐな気持ちを丁寧に表現した。そして、2020年に放送されたNHK連続テレビ小説「おちょやん」ではヒロインに抜擢。主演俳優としての確かな地位を築き、その存在感を決定づけた。

■多彩なヒロイン像で示す、杉咲花の確かな存在感
アニメ映画「メアリと魔女の花」(2017年公開)では声優にも挑戦した杉咲。本作で杉咲は、7年に1度しか咲かない花“夜間飛行”を見つけたことをきっかけに、魔法世界に足を踏み入れる少女・メアリを演じ、そそっかしさと憎めない愛らしさを声だけで立体的に表現。実写とは異なる表現のフィールドでも存在感を発揮した。
また「花のち晴れ~花男 Next Season~」(2018年放送、TBS系)では、ヒロイン・江戸川音役を担当。大手化粧品メーカーの令嬢から一転、倒産によって貧しい生活を強いられることとなったヒロイン像を、杉咲は明るさと強さを併せ持った等身大の演技で魅せ、物語の中心人物として作品を支えた。
そして現在放送中のドラマ「冬のなんかさ、春のなんかね」では、小説家・土田文菜に扮して出演している。文菜はこれまでの恋愛経験から恋に臆病になっている27歳で、現在の恋人・佐伯ゆきお(成田凌)との関係や過去の思い出を通じて、自身の感情と向き合っていく物語だ。本作は派手な事件や劇的な展開ではなく、日常と心の機微を丁寧に描く“会話劇”として設計されており、曖昧な感情の揺れや恋愛への怖れと向き合う主人公の姿を通して、杉咲の繊細な表現力が一層引き立っている。
なお動画配信サービス・Huluでは、同ドラマの見逃し配信に加え、未公開映像を追加した“ディレクターズカット版”も独占配信中。ディレクターズカット版の第1話~第2話は2月11日から、第3話~第5話は2月18日から独占配信を開始しており、第6話以降は順次配信予定となっている。


■まるで“そこに生きている”かのようなリアリティあふれる演技
王道ヒロインから影を抱えた主人公まで、その振れ幅の広さも杉咲の魅力の一つだ。
杉咲の単独初主演映画となった「市子」(2023年公開)は、彼女の実力を改めて印象づけた作品と言える。恋人からプロポーズされた翌日、忽然と姿を消した市子(杉咲)。物語は、彼女を知る人々の証言や回想を通して、その素性や過去が徐々に浮かび上がっていく。家庭環境に恵まれず、親の事情で戸籍を持たないまま生きてきた市子は、どこか危うさを抱えた人物でもある。感情を閉ざしたような無表情さや、光を宿さない瞳。その繊細な変化まで丁寧にすくい上げた杉咲の演技は、観る者の胸を強く締めつけた。
また、ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」(2024年放送、フジテレビ系)では、事故が原因で記憶障害を患う脳外科医・川内ミヤビという難役に挑戦。2年分の記憶を失っただけでなく、新しい記憶も1日ごとに消えてしまうミヤビは、毎朝前日までの出来事を日記で確認することから1日をスタートさせる。戸惑いと不安を抱えながらも、必死に新しい“今日”を生きようとするミヤビ。そんな彼女の姿を杉咲は自然体で演じ切り、確かな説得力を持たせていた。
杉咲が市子やミヤビを演じたことで、まるでその人物が本当に“そこに生きている”かのようなリアリティが生まれている。登場人物の息づかいまでも感じさせる確かな表現力があるからこそ、どのような役柄でも観る者の心に深く残るのだ。

■社会のリアルにも寄り添う、杉咲花の表現力
杉咲の魅力は、多彩な役柄を演じ分ける表現力だけにとどまらない。社会の中で見過ごされがちな問題や、声を上げにくい立場にいる人々のリアルに真摯に向き合い、その思いを丁寧にすくい取って届ける点も彼女の俳優としての強みだろう。
「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」(2021年放送、日本テレビ系)で杉咲が演じたのは、勝ち気だが恋には臆病な弱視の盲学校生・ユキコ。喧嘩っ早いが心は純粋な不良少年・森生(杉野遥亮)と運命的な出会いを果たし、惹かれ合っていく姿が描かれた。
当初は森生を疎ましく思い、冷たい態度を取っていたユキコ。しかし、彼のまっすぐさに触れるうちに、少しずつ心を開いていく。ラブコメという親しみやすい枠組みでありながら、マイノリティを取り巻く現実にも丁寧に光を当てた本作。その中心でユキコを演じた杉咲の表現は、物語に確かな説得力をもたらしていた。
さらに、2021年本屋大賞第1位に輝いた町田そのこ氏の同名小説を映画化した「52ヘルツのクジラたち」(2024年公開)でも、杉咲は重いテーマを背負った役どころに挑んでいる。本作では、東京から大分の海辺の町にやって来た貴瑚(杉咲)が、ある日体中に痣を負った少年と出会い心を通わせていく過程が描かれる。
貴瑚は幼い頃から母親に虐待され、義父の介護を押し付けられた過去を持つ人物だ。DVやネグレクト、ヤングケアラー、性的マイノリティの尊厳など、現代社会のさまざまな問題が含まれる物語の中で、外との関わりや選択肢がなかった貴瑚が、徐々に自分の意志を強く持つようになっていく。その変化の様子を、表情や声のトーンなどの違いで体現した杉咲の演技はまさに圧巻だった。
物語の光と影を繊細にすくい上げ、確かなリアリティをもたらす杉咲の表現力。「冬のなんかさ、春のなんかね」でも、その魅力は存分に発揮されている。彼女が紡ぐ物語から、今後も目が離せない。
なおHuluでは、杉咲が出演する「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」「アンメット ある脳外科医の日記」「市子」「52ヘルツのクジラたち」「メアリと魔女の花」などの作品を見放題配信中。


