#6 「結果は採用ということでよろしいんですよね?」雑談しているうちに、サチコ・55歳の採用が決まった|群ようこ

#6 「結果は採用ということでよろしいんですよね?」雑談しているうちに、サチコ・55歳の採用が決まった|群ようこ

街のありふれた食堂「食堂キング」を舞台に、中年女性・サチコのささやかな成長を描いた、群ようこさんの最新長編小説『サチコ』。その冒頭部分を、地方新聞連載時に添えられた、阪口笑子さんの温かい挿画とともに、お届けします。

店主はしゃべり続けるおかみさんの言葉に、ずっとうなずいている。

「うちは十一時に店を開けて、三時から五時まで昼休みね。そして五時にまた開けて夜の十時までなんだけど、大丈夫かしら」

彼女は急にサチコのほうに向き直った。

「はい、わかりました」

「賄いもあるから昼や晩御飯は心配しなくていいわよ。ただし昼はゆっくり食べられるけど、夜はお客さんの様子を見ながらだから、少しせわしないけどね」

サチコは相変わらず、明るく愛想のいいおかみさんに、

「昼休みは、家が近いのでいったん帰ってもいいでしょうか」 と小声で聞いた。

「かまいませんよ。最初は疲れるかもしれないから、お昼を食べて昼寝をして、また五時に出てくればいいわよ」

にこにこしながら申し出を受け入れてくれた。

「そういうときに、家が近いっていうのはいいね。前にお客さんがここの駅前にある会社をやめて、次の会社が決まるまで手伝ってくれたことがあったんだけどね。通うのに一時間かかっちゃって、持つのかなあって心配したけど、やっぱりだめだったね。会社に通うには平気だけど、どうしてもやりたいアルバイトならともかく、そうじゃなければきついんだよ。時間通りに来ないと、こっちは途中で何かあったのかなって心配になるしさ。まあ、今はスマホがあるから、その点は気楽になったけどね」

今度は店主が話しはじめた。ああ、そうだったんですかといったサチコに、

「駅ビルのところに大きな看板があるでしょ。あの消費者金融に勤めていたの」

とおかみさんが横から口を挟んだ。サチコはまた、

「ああ、そうだったんですか」

というしかない。三人が曖昧な笑いを浮かべつつ、しばらく沈黙が流れた後、サチコは店内の壁の時計を見上げ、

「すみません。昼休み中お邪魔してしまって。あの、結果は採用ということでよろしいんですよね?」

と切り出した。すると彼らは顔を見合わせ、

「こっちは来週から来てもらうつもりでいるけれど」

とおかみさんが真顔でいった。

配信元: 幻冬舎plus

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