
2025年8月、日本が誇る音楽フェス「SUMMER SONIC」の開催が間近に迫るなか、東京・有楽町の劇場「I'M A SHOW」でおこなわれた“ソニック”がある。8月3日「3名様の日」に開催されたイベント「THE3名様ぁソニック 2025」だ。シリーズ20周年という節目にあたって開催された同イベントが、2月18日(水)にBlu-rayとして発売。これまでの映像作品とは異なり、舞台で観客を前に演じた「THE3名様ぁソニック2025」。「映像」と「演劇」を融合させた実験的な試み、そしてフェスにも負けない「ライブ感」…なぜ“おじさん3人の無駄話”がこれほどまでに心を揺さぶるのか。その理由を紐解いていく。
■「2.5次元」ならぬ「3.5次元」の没入感
同作は石原まこちんの同名漫画を原作に佐藤隆太、岡田義徳、塚本高史という実力派俳優3人が、深夜のファミレスで“ただしゃべる”だけの姿を描く。2005年にあえて“DVDのみ”でスタートを切ると、累計33万本の大ヒットを記録。2022年には映画「THE3名様 ~リモートだけじゃ無理じゃね?~」を上映し、さらに2024年には「THE3名様Ω」として連続ドラマ&新作映画「映画 THE3名様Ω~これってフツーに事件じゃね?!~」を発表するなどシリーズ通して大きな人気を博している。
「THE3名様ぁソニック2025」はそんな同シリーズの20周年という節目を記念しておこなわれた、1日限りの超プレミアムなイベント。書き下ろしの「完全新規エピソード」を交えて、映像作品では味わえない観客を前にした“ライブ”を披露した形だ。
映像のなかで3人が駄弁っていたファミレスの風景が、目の前の現実に現れる。ファンの脳内にある「虚構」と「現実」の境界線を溶かし、3人が話す現場に居合わせたような感覚は同ドラマのイベントならでは。ジャンボ(佐藤)、まっつん(岡田)、ミッキー(塚本)の3人が、あたかも映像から飛び出してきたかのように、そのままのテンションで生芝居を披露する。
2.5次元ミュージカルが「漫画の立体化」であるならば、同作は「映像作品の現実化」と言っても良い。観客は単なる「視聴者」から。彼らの隣の席でドリンクバーを飲んでいる「店内の客」へと変貌する。この没入感こそ、同作が「映像作品」の枠を超えて生みだしたライブ感の正体だ。
■緻密な台本と現場の空気感。「嘘のない笑い」が生むグルーヴの正体
本作の特異なライブ感は、脚本の構造と演者の関係性が高度に噛み合うことで生まれている。佐藤隆太は過去のインタビューで、「THE3名様」について「基本的に台本通りだし、結構緻密に考えられている作品」とコメント。つまり彼らは石原まこちんが描く世界観を、プロの俳優として忠実に構築しているのだ。
しかし単に台本をなぞるだけでは、あの独特な空気は醸成されない。20年以上の付き合いがある3人は互いの芝居の呼吸を熟知しているが、同インタビューで佐藤が「現場では思いもよらないところからセリフが飛び出してくることがあって。(中略)フレッシュなリアクションが見られる」と述べる通り、計算された展開の中で突発的な“生”の反応が引き出される瞬間がある。
岡田義徳も「そもそも僕たちに笑わせようという感覚はない」と明言。“コメディアンのコント”として笑いを取りにいくのではなく、あくまで役として会話を楽しんでいるのだ。緻密な台本をベースにしつつも、長年の信頼関係があるからこそ生まれる現場のノリや、予期せぬトーンの変化。これらが演者自身の「嘘のない笑い」として結実し、観客を巻き込む強力なグルーヴとなっている。
このグルーヴが最も端的に表れているのが、シリーズを通して頻出する「ドリンクバーのオリジナル配合」を巡る不毛な論争シーンだ。「メロンソーダとカルピスを何対何で割るか」といった、人類にとって何一つ益のないテーマに対し、3人はまるで国の命運をかけた会議のように真剣に持論をぶつけ合う。
さらに架空のラジオ番組「ファミレズの今夜はオールナイト!」を舞台上で楽しむ際には、観客が直接3人に声を届ける場面も。これもライブならではの演出で、観客が本当に「THE3名様」の世界に足を踏み入れた感覚を強めたに違いない。
ジャンボが熱弁を振るい、まっつんが冷静にツッコミ、ミッキーが斜め上の配合を提案して場を撹乱する。この一連の流れにおける食い気味の否定や、絶妙なタイミングで訪れる沈黙の間。これが20年間ファミレスに居座り続けた彼らにしか出せない「阿吽の呼吸」そのものだ。
■「変わらない」という最強のエンターテインメント
「サマーソニック」が最新の音楽トレンドを提示する場であるなら、「THE3名様ぁソニック」は「変わらないことの尊さ」を心安らかに楽しむ場だ。
社会情勢が変化し、コンプライアンスが叫ばれ、個人のライフステージが変わっていく現代。それでも日本のどこかで誰かがそうしているように、ジャンボたちはファミレスでダラダラし続けている。
イベントの最終盤、壇上に呼ばれた原作者であるまこちんは「あっという間でした」と同イベントについて語った。同作は息をのむような目まぐるしいスペクタクルがあるわけではない。どこにでもいそうな誰かの、くだらない会話や妄想をダラッとなぞる物語だ。
それでも「あっという間」に過ぎたように感じさせるのは、ひとえにその“くだらない会話”があるから。自然を楽しむキャンプ、秘境の温泉旅、力いっぱい楽しむスポーツ…そしてかけがえのない仲間と頭を空っぽにして臨む会話。生き馬の目を抜く現代、ふっと息を抜いて立ち止まる時間はなによりも贅沢だ。同イベントはそうした温かい停滞に観客を巻き込み、“ライブならではの一体感”と“くだらない安らぎ”を両立させた。
2月18日(水)に発売されたBlu-rayには、本編に加えてイベントの裏側を追ったメイキングや3人による「大反省会」も収録される。ステージを降りた後の彼らの姿を確認することで、オンとオフの境界線が限りなく薄いこの作品の特異性がより浮き彫りになるだろう。
「THE3名様」は劇的な事件も起きなければ、感動的な結末もない。しかしこの「何もしない贅沢」を共有する特別なイベントには、確かに極上のライブ感があった。貴重な“停滞”の癒しを与えてくれる同作が、20周年を超えて見せてくれる“次の展開”にも期待したい。

