夫と娘と穏やかに暮らす恵は、非常時に備えて封筒貯金を続けていた。ある日、その封筒の中身が不自然に減っているように感じるが確証はなく、夫からも「忘れただけでは」と言われてしまう。
慎ましい暮らしと、封筒貯金という安心
主人公・恵は、夫の健太と、3歳の娘・莉子と、3人で暮らしている。決して裕福ではないが、困るほどでもない。健太は会社員として働き、恵はパートに出ながら家のことを回している。外食は月に1度あるかないか。服も、必要になってから買う―――そんな慎ましい生活が、恵には性に合っていた。
その中で、恵がずっと続けている習慣がある。それが“封筒貯金”だった。
「諸経費用」
冠婚葬祭、急な出費、子どもの発熱で予定外にかかる医療費。何かあったときのための、いわば“生活のクッション”だ。毎月決まった金額ではないものの、恵は少しずつ貯金していた。
(これがあるだけで、気持ちが全然違うんだよね)
恵はそう思いながら、封筒をいつも同じ引き出しの奥にしまっていた。この貯金の存在は健太も知っているが「必要な時は相談して」と管理は恵がしていた。
封筒の中身に違和感
その日も、いつも通りの1日だった。朝、莉子を保育園に送り、パートを終えて帰宅する。洗濯物を取り込み、夕飯の下ごしらえをしていると、ふと頭に浮かんだ。
(今月分、ちゃんと入れたっけ……?)
不安になると、どうしても確認したくなる性分だ。恵はキッチンを離れ、引き出しを開けた。茶封筒は、変わらずそこにあった。ほっとしながら中身を確認し、恵は首をかしげる。
(……あれ?)
金額が、少ない気がする―――。正確な金額を、すぐに言えるわけではない。けれど、おおよその感覚はある。それより、確実に少ない。
恵は、封筒の中身をテーブルに広げて何度か数え直す。やっぱり、記憶と合わない。
(私が、今月分を入れ忘れただけ?)
そう思おうとするが、どうしても引っかかる。先月、封筒を開けたときの厚みを、はっきり覚えているからだ。
「……気のせい、かな」
自分に言い聞かせるように呟き、恵は封筒を戻した。

