恵は生活費として管理している封筒貯金の金額が記憶と違うことに気づき、不安を覚えた。夫・健太に相談するも「入れ忘れでは」と流され、違和感を抱えたまま日常へ戻る。その1ヶ月後、確実に入れたはずの今月分が再び減っていることに気づき、恵の不安は現実味を帯びていく。
違和感が“確信”に変わった日
前回の違和感から1ヶ月後。恵は、いつも以上に慎重になっていた。
月初め、給料日直後。お札や小銭の感触を確かめながら金額も確認し、封筒にお金を入れる。
(ちゃんと入れた)
入れた瞬間を、しっかり覚えている。
封筒の中身を数え、厚みを確かめ、引き出しにしまった。
(今月は、間違いない)
そう思えるように、あえて声に出して確認したほどだった。
それから数日後の昼下がり。
恵は、何となく胸騒ぎを覚え、再び引き出しを開けた。
茶封筒は、そこにある。
位置も、向きも、いつも通り。
けれど──
中身を取り出した瞬間、確信に変わった。
(……減ってる)
今回は、迷いようがなかった。
数日前、自分の手で入れた金額。
その感触も、紙幣の枚数も、はっきり覚えている。
恵は何度も数え直した。
それでも、結果は変わらない。
「どうして……?」
心臓が、嫌な音を立てる。
(私、出してない)
必要な出費もなかった。
封筒を開ける理由が、この数日間にあったとは思えない。
「考えすぎだよ」夫に否定された違和感
夕方、健太が帰宅した。
莉子は保育園で覚えた歌を歌い、家の中はいつもの賑やかさだ。
夕飯を終え、莉子を寝かしつけたあと。
恵は、前回よりもはっきりとした不安を抱えたまま、切り出した。
「ねえ、健太」
「ん?」
スマホを見ていた健太が顔を上げる。
「封筒貯金のことなんだけど……今月分、ちゃんと入れたの。自分でも確認した」
健太は少し眉を寄せた。
「それで?」
「……また、減ってる」
一瞬、部屋の空気が止まった気がした。
「え?」
健太は驚いたように目を見開く。
「俺、知らないけど」
「うん……。心当たり、ない?」
「ないない」
即答だった。
「そもそも、俺あれ触らないし」
恵は唇を噛んだ。健太の態度に、嘘っぽさは感じない。
けれど、だからといって納得できるわけでもなかった。
「じゃあ……」
言い淀んだあと、恵は思い切って口にする。
「もしかして、誰かに入られたとか……」
「は?」
健太の声が、少し強くなる。
「泥棒ってこと?」
「……可能性の話、だけど」
すると健太は、ため息をついた。
「そんな半端なことする泥棒、いるわけないだろ」
「え……?」
「現金盗むなら、もっとごっそり持ってくよ。封筒からちょっとだけ、なんて聞いたことない」
健太はそう言い切り、話を終わらせるように立ち上がった。
「考えすぎだよ。勘違いか、数え間違い」
その背中を、恵は黙って見送るしかなかった。
(考えすぎ……?)
自分でも、そう言い聞かせようとした。けれど、胸のざわつきは消えないままだった。

