“安全なはずの家”が揺らぎ始めた夜
その夜。
健太が先に寝室に行き、恵はリビングで一人、スマホを開いた。
無意識のうちに、検索窓に文字を打ち込んでいる。
「貯金 盗まれた」
次々と表示される体験談。最初は「やっぱり大げさだ」と思った。
しかし、読み進めるうちに、ある言葉が目に留まる。
──少額ずつ盗む泥棒もいる。
「……え?」
記事を開く。
(気づかれないように少しずつ)
(家族が犯人だと疑われないため)
(生活圏を把握している人物が多い)
似たような内容の記事が、いくつも出てくる。
「そんな……」
恵の背中を、冷たいものが這った。
(じゃあ、あれも……?)
自分の家。自分の生活。
安全だと信じていた場所が、揺らぎ始める。
画面を閉じても、不安は消えない。
(本当に、外部の人?それとも……)
考えたくない方向に、思考が向かいそうになり、恵は首を振った。
(疑うなんて、嫌だ)
けれど、封筒が減っていた事実だけは、消えない。
その夜、恵はなかなか眠れなかった。
静かな部屋で、引き出しの奥にしまわれた茶封筒の存在が、やけに重く感じられた。
この違和感が、ただの思い過ごしで終わるのか。
それとも──。
恵の不安は、確実に深まっていった。
あとがき:消えたのは、お金だけじゃない
「気のせい」と言われた違和感が、確信に変わるとき、人は初めて“信じていたもの”を見つめ直します。
封筒の金額以上に、恵の心の安定が削られていく過程が描かれていました。
否定される不安、共有できない違和感は、孤独を深めていきます。
まだ犯人も理由も見えないまま、ただ「何かがおかしい」という感覚だけが残る。
恵の視線は、さらに身近な場所へと向いていきます。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
イラスト:まい子はん
記事作成: tenkyu_writing
(配信元: ママリ)

