●NHK調査が示す「生存権」重視の国民意識
参政党草案第8条2項には「国民は、健康で文化的な尊厳ある生活を営む権理を有する」としており、現行の憲法第25条の「生存権」の規定に一応相当するもののようにもみえる。
少ない条文の中で、この規定を盛り込んだ背景について、平弁護士は「憲法の人権規定に関する国民の意識を反映させた結果ではないか」と分析する。
根拠の一つが、NHK放送文化研究所が1973年から2018年までおこなってきた「日本人の意識調査」だ。
2018年の調査では「憲法によって、国民の権利ときめられているのはどれか」と問われた際、「人間らしい暮らしをする(生存権)」を選んだ人が74%にのぼった。一方で「思っていることを世間に発表する(表現の自由)」を権利として認識していた人はわずか30%にとどまった。
平弁護士は「生存権を基本的人権だと考える国民の意識が特に強いことを踏まえ、マーケティング的に生存権に関係する文言を草案第8条1項とは別に第8条2項に盛り込んだのだろう。逆に表現の自由などへの関心は低いため、第8条1項にまとめて入れ込んだようにも一応読めるように作ったのではないか」と指摘する。
●「公益」がもたらすより強い人権制約
さらに草案では「公共の福祉」ではなく「公益」という言葉が採用されている。平弁護士は「2つのワードは全然違う」と強調する。
現行憲法での「公共の福祉」については「さまざまな考え方があるが、基本的には人権相互間の矛盾や衝突を調整するための原理であり、個人の基本的人権の制約の根拠となる中核部分は、他の個人の基本的人権である」と理解されてきた。
しかし「公共の福祉」ではなく、「公益」というワードに変わると、国家や社会全体の利益がさらに優先されやすくなり、「より基本的人権を制限しやすくなる」という。
平弁護士は「もし草案の第2案を作るのであれば、『公共の福祉』というワードを入れるべき」と述べた。
【取材協力弁護士】
平 裕介(たいら・ゆうすけ)弁護士
2008年弁護士登録(東京弁護士会)。主な業務は行政訴訟、憲法訴訟。行政法研究者でもあり、多数の論文等を公表。大学やロースクール(法科大学院)で行政法等の授業を担当(非常勤)。審査会の委員や顧問など、自治体の業務も担当する。
事務所名:AND綜合法律事務所
事務所URL:https://and-lawoffice.com/

