駅のホームや路上で、自分より弱いとみなした人にぶつかっていく「ぶつかりおじさん」。
とくに女性がターゲットされるが、そうした迷惑行為をめぐり、剣道をしているという女子大学生のX投稿が1月に拡散し、大きな話題になった。
女子大学生は、ぶつかりおじさんに遭遇したとして、次のように投稿した。
「明らかに狙って突っ込んできたけど、こちらは剣道で鍛えた体幹と肩。微動だにせず正面から受け止めてしまった。相手の方が派手に体勢崩してよろけてたから、反射的に『あ、すみません〓』って謝っちゃった」
これに対して、当事者を名乗る匿名アカウントが「女性にぶつかられ肩を怪我しました。必死に避けましたが逃げられませんでした」などと投稿。それぞれ2000万回以上表示されるなど拡散した。
女性は続く投稿で「大股なのか、速いスピードで来たので、避けられる距離でもなかったです。ですから、本当は避けるのが1番です!」とも書き込んでいる。現時点で、ことの真偽や詳細は明らかではない。
一般的な話として、向かってくる相手を避けずにぶつかり返す行為には問題ないのか。また、虚偽の被害を訴えた場合にどのような法的リスクが生じるのか。寺岡慎太郎弁護士に聞いた。
●逆に犯罪と評価される可能性も
──わざとぶつかろうとしてきた人に対して、避けずにぶつかり返したり、受け止めたりするのは問題になるのでしょうか。
駅構内や路上で、相手がこちらに向かってくると認識しながら、あえて身をかわさずに「受け止める」「ぶつかり返す」といった行為をした場合、暴行罪(刑法208条)に該当する可能性があります。
暴行罪における「暴行」とは、殴る・蹴るといった典型的な有形力の行使に限られず、相手の身体に向けて物理的な力を加える一切の行為を含むと解されています。故意に身体をぶつける行為も、これに含まれます。
ただし、相手から一方的に危害を加えられそうになった場合には、正当防衛(刑法36条1項)が成立し、違法性が阻却される余地があります。
正当防衛が認められるためには、
(1)急迫不正の侵害が存在すること
(2)防衛の意思があること
(3)反撃行為が相当な範囲にとどまること(相当性)
が必要です。
仮に、回避が可能だったのに、あえて積極的に衝突を選択したと評価される場合や、危険を排除するために必要な程度を超える力を行使したと評価される場合には、(2)防衛の意思や(3)相当性を欠くとして、正当防衛が否定される可能性があります。
その結果、相手の行為が違法であったとしても、自身の行為が逆に犯罪行為と評価されるリスクは否定できません。したがって、法的にはあまりおすすめできる対応ではないといえるでしょう。
●「被害のでっちあげ」名誉毀損のおそれあり
──今回の投稿の真偽は不明ですが、関係のない人が「自分が被害者だ」と虚偽の主張をSNSに投稿した場合、法的にどう考えられますか。
SNS上で「自分が被害者である」と虚偽の主張を投稿する行為については、その内容や態様によっては、名誉毀損罪(刑法230条1項)が問題となります。
名誉毀損罪は、不特定または多数人が認識し得る状態で、特定人の社会的評価を低下させる事実を摘示した場合に成立します。
実際には存在しない加害行為をでっちあげ、「女性から故意に攻撃された」「怪我を負わされた」などと投稿した場合、それが特定の人物を想起させ、社会的評価を低下させる内容であれば、虚偽であっても構成要件には該当します。
真実性や公益目的などが認められない限り、違法性は阻却されません。
このように「相手が悪いから許される」「ネット上だから問題にならない」という単純な構図にはなりません。刑法上の要件を一つひとつ検討する必要があります。
とりわけ、感情的な反撃やSNS上での安易な発信は、思わぬ法的責任につながる可能性があります。冷静な判断が求められます。
【取材協力弁護士】
寺岡 慎太郎(てらおか・しんたろう)弁護士
法政大学法学部、同大学院法務研究科を修了後、第二東京弁護士会に弁護士登録。
弁護士業の傍ら、同大学院法務研究科にて支援弁護士として憲法、行政法を教える。
主な取扱い分野は離婚・男女問題、ネットトラブル、刑事事件。愛車はマツダRX-8。最近、油物を食べるのがキツくなってきた。
事務所名:あかがね法律事務所
事務所URL:https://culaw.jp/

