●私用メールに関する裁判例では「適法」とされているものが多いが‥
以上のように、社内アカウントのSlackのDMを監視することに対しては、プライバシー権が一応認められるものの、限定的であることに注意が必要です。
私用メールに関する事例については、私が調べた限りでは、実際に訴訟になったケースの多くが適法とされているようです。
たとえば、ハラスメント被害の申告を受けた後の証拠確認、企業秘密の盗難に関する調査、規制により記録保管が義務付けられている場合、裁判所命令に基づく開示などが挙げられます。
日経クイック情報事件(東京地裁平成14年(2002年)2月26日判決)では、誹謗中傷メールの送信者を特定するための調査として、労働者のメールをモニタリングした事案において、企業秩序違反の調査を目的とした正当な行為であるとして、労働者からの損害賠償請求を棄却しています。
この裁判例は監視に関するものですが、エクスポートについても考え方は参考にできると思います。
なお、Slackの「DM」は、プライベートなやりとりとして特にパブリックチャンネルなどとは区別して設けられているシステムです。企業によっては、DMでのやりとりを禁止している場合もあるでしょう。
DMによるやりとりを明示的に禁止していない企業の場合、ある程度社内でのプライベートなやりとりを尊重していると考えられます。そこで、通常の電子メールの私用の場合と比べて、より強く従業員のプライバシーを保護すべき、と解釈される余地はあるでしょう。
つまり、実際に裁判になった場合を想定すると、SlackのDMをエクスポートするケースの方が、私用メールのログを確認する場合よりも、企業側の違法が認定されやすいのではないかと思われます。
●2)違法な業務命令に従わないことができるか
次に、問題の2)です。仮に違法な業務命令であった場合に、Kさんはそれに従わないことができるでしょうか。
また、Kさんのケースのように、理由もなしに経営層から「◯◯さんのSlackのDMの履歴をすべて提出してほしい」と要望された場合はどうでしょうか。
まず、労働法上、違法な業務命令に従う義務はないと考えられているため、違法であることがはっきりしていれば、Kさんはエクスポートを拒むことができるでしょう。
ただし、エクスポートが違法かどうかは、目的、手段、態様などを総合的に考慮して判断されるため、判断が難しい場合もあります。
たとえば違法だと思って業務命令に従わなかったが、実は業務命令が適法だった場合、Kさんのような管理者が業務命令違反として不利益を受ける可能性があります。
次に、提出の目的が不明な場合、安易に要望に従ってしまうことにはリスクがあります。
使用者が、雇用している労働者に関して収集する個人情報についても、個人情報保護法の適用があります。
同法では、個人情報を取り扱うにあたって利用目的をできる限り特定し(法17条)、あらかじめ通知・公表している目的の範囲内で取り扱うこと(法18条)が義務づけられています。
また、目的不明のままでエクスポートしてしまい、結果的に「不適正な利用(違法または不当な行為を助長し、または誘発するおそれがある方法による利用)」(法19条)を許してしまうおそれもあります。
具体的には、エクスポートの本当の目的が、特定の従業員に対して圧力をかけることだったり、労働組合活動の妨害だったりした場合です。
システム管理者は、利用目的が不明な場合には、同法に違反するおそれがあるとして、エクスポートを拒めると考えられます。

