見守りカメラの映像から封筒貯金を抜き取っていた犯人が夫・健太だと判明した。
深夜に二人が向き合い、健太が行為を認める。
恵は感情的にならず、今後の夫婦としての在り方を選び取っていく。
冷静に証拠を突きつけた夜
娘の莉子を寝かしつけたあと、家の中は深夜特有の静けさに包まれていた。
寝室のドアをそっと閉め、恵はリビングのダイニングテーブルに向かう。
時計の針は、深夜一時を回っている。
「……健太、少し話そう」
その声に、夫は何かを察したように動きを止めた。
テレビを消し、無言で椅子に腰掛ける。
向かい合って座る二人の間には、重たい空気が流れていた。
恵は深く息を吸い、スマートフォンをテーブルの上に置く。
「これ、見て」
画面を操作し、保存していた動画を再生する。
無音の映像の中で、健太が封筒貯金の引き出しを開け、迷いなく紙幣を抜き取る姿が映し出された。
数秒。健太の顔色が、みるみる変わっていく。
「……え、これは……」
恵は、目を逸らさなかった。
「見守りカメラ。封筒貯金が減る理由、確かめたくて設置したの」
健太は、言葉を失ったまま画面を見つめている。
焦り、動揺、そして──逃げ場を失った表情。
「……違う、これは……」
「言い訳しなくていい」
恵の声は、驚くほど落ち着いていた。怒鳴る気にも、泣く気にもなれなかった。
ここまで来ると、感情よりも「事実」を整理する方が先だった。
出来心という名の裏切り
「何回?」
短く、核心だけを問う。健太は、俯いたまま黙り込む。
沈黙が、答えだった。
「……ごめん」
か細い声で、夫が口を開いた。
「最初は、本当に一回だけのつもりだったんだ」
恵は、黙って聞く。
「小遣いが足りなくて……仕事の付き合いとか、昼飯とか……足りないって言えなくて」
言葉は、途切れ途切れだった。
「封筒に手を出したら、意外と簡単で……少額なら、バレないと思った」
出来心。その言葉が、頭の中で反響する。
「気づいた時には、もう何度もやってた。やめなきゃって思ってたのに……」
健太は、頭を抱えた。
「恵が気づいてるって分かった時、正直……怖かった」
恵は、静かに問いかける。
「警察の話をした時、どうしてあんな電話をしてきたの?」
健太は、苦しそうに答えた。
「……誤魔化したかった。もし本気で調べられたら、終わるって思って」
恵は、目を閉じた。
(やっぱり)
疑っていたことが、すべて繋がる。
封筒貯金が減ったこと以上に、胸に残ったのは──裏切られたという事実だった。

