
長野県松本市にある「松本ホテル花月」は、民藝生誕100年にあたる2026年、民藝の精神を現代の感性で再解釈した新客室「MiN Suite(ミン・スイート)」を新設する。
今回のプロジェクトは、2027年に迎える松本ホテル花月140周年に向けた周年事業の第1弾として位置づけられるもの。単なる客室改装ではなく、創業以来大切にしてきた松本に根差したホテルとしての原点と向き合い、次の時代へと手渡していくための思想をかたちにする試みでもあるという。
民藝生誕100年の節目に誕生する「MiN suite」
民藝は、思想家の柳宗悦によって見出され、「名もなき人の手仕事」に宿る美を、日常の中に取り戻そうとした運動。
松本は、その民藝思想と深く結びつきながら育まれてきた土地であり、「松本ホテル花月」もまた、松本民芸家具をはじめとする民藝の精神を、展示するのではなく、使い続けることで受け継ぐことを大切にしてきたという。
今回新設される「MiN suite」は、民藝生誕100年という節目にあたり、この地に連なる民藝の考え方を、現代の宿泊体験として表現する空間となっている。
名前に込められた4つの“Min”
「MiN Suite」の名前に込められた4つの“Min”について紹介しよう。
1つ目は、「Mingei(民藝)」。
「MiN suite」の空間には、松本ホテル花月が長年培ってきた意匠の記憶が息づいている。かつて制作されたホテルの旧パンフレットデザイン、レストラン「I;caza」に用いられているモザイクタイル、そして館内各所・客室を彩る、染色家の柚木沙弥郎氏の作品。それらは単なる装飾ではなく、民藝の思想を日常の風景として積み重ねてきた花月の時間そのもの。「MiN suite」は、その流れの延長線上に生まれた。
2つ目は、「Mindful(いまを感じる)」。
照明、家具の配置、素材の肌触り。すべては「いま、この瞬間」を丁寧に味わうために整えられている。感覚が静かにひらき、時間がほどけていく。「MiN Suite」は、心地よい感性がそっと蘇る場所だ。

3つ目は、「Minimum(引き算の美)」。民藝が大切にしてきた「用の美」は、過剰な装飾や余分な要素を手放すことで姿を現す。「MiN Suite」は、必要以上のものを置かず、また必要以上の広さを持たない空間として設えられている。
それは窮屈さのためではなく、視線や意識が拡散せず、素材や行為そのものに向き合える“ちょうどよさ”のため。素材の質感、手触り、光の揺らぎ。その一つひとつが際立ち、使う人の時間と感性によって空間が完成していく。
4つ目は、「Matsumoto IN(松本の内へ入る)」。城下町としての歴史、名水の静けさ、山に抱かれた土地の息遣い。「MiN Suite」は、観光地としての松本ではなく、暮らしと歴史が折り重なった“松本の内側”へ入っていくための部屋となっている。
