脳腫瘍の後遺症とは?メディカルドック監修医が脳腫瘍の後遺症・治療法・リハビリ方法などを解説します。

監修医師:
佐々木 弘光(医師)
医師、医学博士。香川大学医学部卒業。奈良県立医科大学脳神経外科に所属し、臨床と研究業務に従事している。現在、市立東大阪医療センターに勤務。脳神経外科学会専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医、脳卒中学会専門医、の資格を有する。
「脳腫瘍」とは?
脳腫瘍とは脳内にできる、いわばできもののことです。大まかには良性や悪性、また原発性といって脳の中にある細胞が腫瘍化するものと、他臓器の悪性細胞が脳内に定着して出現する転移性(続発性)脳腫瘍などに大別されます。さらに原発性脳腫瘍は、脳内のどこの組織からできているかによって、細かく分類されています。ここでは脳腫瘍の症状、後遺症などについて解説していきます。
原発性脳腫瘍の種類と症状
原発性脳腫瘍とは、脳内に存在する細胞が増殖し、できもの(腫瘍)となったものです。脳内のどの細胞が腫瘍になるかによって細かく分類されていますが、ここでは代表的なもので解説します。
神経膠腫
脳の中のグリア細胞という細胞が腫瘍になったものです。グリオーマともいい、細かな種類の違いは多岐にわたります。悪性度(どれくらい顔つきの悪い腫瘍なのか)の高いものが多く、最も悪性度の高い膠芽腫(膠芽腫)と呼ばれるタイプのものは、数か月から数週間単位で急激に進行することもあります。特に成人では大脳半球にできるものが大半で、大脳半球の中のどの部位に腫瘍ができたかによって様々な症状が出現します。例えば手足を動かすような運動野と呼ばれる場所の近くにできた場合は、腫瘍と反対側の手足の麻痺や呂律困難が出現したり、感覚野と呼ばれる場所の近くの場合は反対側の身体のしびれなどを自覚したりする場合があります。また前頭葉や側頭葉にある言語野と呼ばれる場所の近くでは言葉の出にくさや理解のしにくさといった症状が出現したり、後頭葉や側頭葉といった場所では視野に影響したりします。また場所によっては性格変化や高次脳機能障害といって、空間認識の欠如(身体の片方ばかりぶつけるなど)や、急に認知症が進んだかのような症状、簡単な計算や日常生活の行動ができにくくなる症状など、はっきりとはわかりにくい症状を認める場合もあります。また共通して言えるのは、脳腫瘍が大きかったり、周囲の正常な脳を圧迫して浮腫(むくみ)をきたしたりするような場合は、脳の中の圧力が高まり(頭蓋内圧亢進 ずがいないあつこうしん といいます)、頭痛や吐き気・嘔吐、痙攣といった症状をきたします。そのためこれらの症状がきっかけで脳腫瘍が発見されることもあります。また重度の場合は傾眠(うとうとして反応が悪くなる)や昏睡といった、意識障害を生じる場合もあります。
脳原発悪性リンパ腫
脳の中にあるリンパ系と呼ばれる細胞が腫瘍になったものです。中高年以降での発症が多く、神経膠腫と同じく、脳の中のどこでも発症する可能性があります。従って、症状も発生した場所によって様々です。名前の通り、悪性の腫瘍であり、放置すると進行は速いです。基本的に診断がつけば、腫瘍を小さくするための化学療法が非常に重要かつ有効です。この腫瘍も頭痛や嘔吐、痙攣といった症状がきっかけで発見されることもあります。
髄膜腫
脳全体の外側を包む髄膜(主に硬膜)と呼ばれる膜が腫瘍となったものです。基本的に良性(顔つきのいいもの)とされ、大きくなるのにも年単位で、ゆっくりと進行することが多いです。また脳の周りの膜が腫瘍になったものなので、ある程度腫瘍が大きくなって、外側から脳を押さえて圧迫するようになって初めて症状が出現することも多いです。しかし時々、悪性に近い性質を持つこともあり、その場合は、大きくなる速度が速かったり、周りの正常な脳の細胞にへばりついたり、しみこんだりして大きくなることもあります。この髄膜腫も圧迫する脳の場所によって出現する症状は様々であり、その他、頭痛や吐き気・嘔吐、痙攣といった症状で発見される場合もあります。
下垂体腫瘍
脳の下部にホルモンを分泌している脳下垂体とよばれる場所があり、その周辺の細胞が腫瘍になったものをいいます。代表的なのは下垂体腺腫といって、ホルモンを分泌する下垂体の細胞が腫瘍になったものです。基本的に良性腫瘍とされ、ホルモンを分泌する腫瘍としない腫瘍があります。ホルモンを分泌する場合は、分泌過多、つまりホルモンが体内に多くなりすぎた結果、様々な症状を来たします。例えば、プロラクチンというホルモンを分泌する腫瘍なら、女性の場合は生理不順や無月経、乳汁分泌といった症状があります。成長ホルモンの場合は手足の先や舌が大きくなったり、顔面の見た目がかわったりするなどの症状があります。しかしホルモンを分泌しない腫瘍の場合も多くあります。また下垂体の近くには、視神経といって視覚に関わる神経があり、腫瘍が大きくなってこの視神経が圧迫されはじめると、両目の外側が見えにくくなる(両耳側半盲:りょうじそくはんもう、といいます)特徴的な症状を認めます。そのため目の見えにくさで眼科に行ったら、たまたまこの腫瘍が見つかったという場合もあります。
神経鞘腫
脳の中にある神経を覆う膜が腫瘍になったものです。特に代表的なものとしては聴神経鞘腫というものがあります。聴神経とは、聴覚や身体のバランス感覚を担う、脳の中を走る神経です。これが腫瘍になることで、耳が聞こえにくくなる聴力低下の症状が出現します。その他、聴神経の近くには顔面神経という顔を動かす神経や身体の姿勢等を保つ小脳などがあるため、腫瘍が大きくなって顔面神経や小脳を圧迫しはじめると、顔が動かしづらくなる顔面麻痺の症状やバランスがうまく取れずにふらつくなどの症状が出現する場合もあります。基本的に良性腫瘍で、この聴神経鞘腫以外にも様々な神経があるため、腫瘍になった神経の種類によって症状は異なります。

