地下鉄サリン31年、被害は終わっていない 国際基準から問う日本の支援制度

地下鉄サリン31年、被害は終わっていない 国際基準から問う日本の支援制度

●被害者参加の制度的課題

事件後、複数の被害者関連団体が活動してきた。オウム犯罪被害者支援機構は主に賠償請求を中心に活動し、地下鉄サリン事件被害者の会は主として遺族が中心となって活動してきた。リカバリーサポートセンター(RSC)は検診事業などを担ってきた。

私は一時期、RSCの理事をつとめていた。理事会では、他団体の意向として「報道時間帯への配慮が必要だ」との説明が共有された。その後、献花は報道時間帯の後におこなわれるようになった。その結果、後遺症を含む被害の実態が社会に共有される機会が相対的に小さくなり、当事者の参加や可視化が制度上の論点として残った。

問題は、その意思決定過程がどのような経緯でおこなわれ、どのように記録、共有され、説明されてきたのかという点である。HRBA(人権に基づくアプローチ)が重視する「透明性」や「説明責任」に関わる問題である。

誰が公的な場で可視化され、誰が後景に退くのか。そうした選択は制度的な構造の中で生じる。

各団体の活動は重要な役割を果たしてきた。一方で、被害当事者が制度設計や政策形成の議論に継続的に参加する仕組みが、制度として明確に構築されてきたかどうかについては、改めて検証が求められる。

2021年に私自身も情報発信を始めたが、個人の取り組みに依存する状況では、制度として参加が保障されているとは言い難い。

なお、今回、関係者にHRBAの一般的な枠組みについて見解を求めたところ、NHKからは「総合的に判断している」、公安調査庁からは「利用可能な情報・資料等の中で、同趣旨に適したものを選定した」との返信があった。

いずれもHRBAの枠組みそのものへの踏み込んだ説明ではなく、少なくとも現時点で、HRBAの観点がどの程度意識されているのかは外形的には見えにくいと感じた。

●国際的な枠組みと被害者の位置づけ

OPCWの年次総会では、化学兵器の問題は「過去の悲劇」ではなく、「現在進行形の国際規範の問題」として扱われていた。被害者は単なる支援の対象ではなく、「二度と繰り返させない」という国際規範を支える主体として位置づけられている。

会議では、被害者が自ら証言し、政策議論に参加していた。参加そのものが、被害の存在と重さを国際社会に可視化する役割を果たしている。

総会で出会ったイランの医師シャフリアール・カテリ氏は、1980年代の化学兵器攻撃の生存者であり、現在も被害者支援活動に携わっている。

同氏は、生存者が孤立せず、語り合い、社会参加できる制度の重要性を強調した。

同氏によると、イランでは約6万5000人の被害者が政府登録され、障害率に応じて医療費が公費負担となり、年金制度も整備されている。家族支援や社会参加の仕組みも制度化されているという。

重要なのは制度の優劣ではない。被害を「過去の出来事」とみなすのか、「継続する社会的課題」と捉えるのかという制度思想の違いである。

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