「雇い止め無効」判決出ても…無期転換申込みは1割未満、大学・研究機関に広がる「10年ルール」の影

「雇い止め無効」判決出ても…無期転換申込みは1割未満、大学・研究機関に広がる「10年ルール」の影

この10年あまり、大学や研究機関で働く有期雇用の教職員や研究者の雇い止めが全国で問題となっている。

そうした中、非常勤講師の「労働者性」を認め、5年以上勤務した場合の無期転換を有効とし、雇い止めを無効として復職とバックペイの支払いを命じる判決が、今年1月15日に東京高裁で言い渡された。

訴えを起こしたのは、東京海洋大に17年間勤務していた非常勤講師の男性(62)。無期転換を申し込んだものの大学に拒否され、2022年3月に雇い止めされたとして、地位確認などを求めて提訴していた。

一審の東京地裁は、大学との契約は労働契約にあたらないとして請求を棄却。しかし、東京高裁はこれを覆し、男性の労働者性を認め、無期転換したものとみなし、解雇は無効と判断した。大学側は上告している。(ジャーナリスト・田中圭太郎)

●「委嘱だから労働者ではない」という大学側の主張

控訴審判決後の記者会見で、男性はこう語った。

「一審判決は、あろうことか非常勤講師の労働者性を否定しました。文部科学省の指針に明確に反するとともに、非常勤講師の実態をまったく考慮しない判断に、私は驚きを隠せず、とてもショックを受けました。しかし、今回控訴審が大学教員の実態に即した適正な判断をしてくださり、安堵しました」

男性は2005年から主要講義科目を担当してきた。

2013年施行の改正労働契約法により、有期雇用でも通算5年を超えて勤務すれば無期転換を申し込む権利(いわゆる「5年ルール」)が発生する。

男性もこれに基づいて無期転換を申し込んだ。

しかし、大学側は、無期転換はできないと拒否し、雇い止めした。裁判でも、契約は「委嘱」であり、労働者性を否定してきた。

同様の雇い止めは、2018年以降、全国の大学で相次いでいる。大学側が「委嘱」「請負」「準委任」といった契約形式を理由に労働契約の成立自体を争うケースは少なくない。

一方、文部科学省は、非常勤講師は労働契約法上の労働者に該当するとの立場を一貫して示してきた。2021年4月の通知では、「請負」や「準委任」で授業を担当させることは適切でないと明記している。

それでもなお、無期転換を認めない大学は存在する。さらに深刻なのは、裁判所の判断も分かれている点だ。

専修大の非常勤講師が無期転換を求めた訴訟では、2023年3月に講師側勝訴が最高裁で確定した。一方で、大阪大の非常勤講師4人の訴訟では、一審の大阪地裁が労働者性を否定し、現在も控訴審が続いている。

東京海洋大の裁判も、大学側が上告しており、最高裁の判断に委ねられる可能性がある。その場合、非常勤講師の法的地位をどう整理するのかが、大きな焦点となる。

●「5年ルール」から「10年ルール」へ広がる問題

問題は非常勤講師にとどまらない。近年、研究機関などで有期雇用される研究者の雇い止めも深刻化している。

その背景にあるのは、改正労働契約法の特例として設けられた、いわゆる「10年ルール」だ。

「任期法」や「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」(イノベ法)に基づき、研究者などについては無期転換申込権が発生するまでの期間が10年に延長されている。

この制度は、研究プロジェクトの実情に配慮して、「5年ルール」逃れによる雇い止めを防ぐ目的で、議員立法により2014年に成立した。しかし、当初から「今後は10年直前で雇い止めされるのではないか」という懸念が指摘されていた。

実際、2023年以降、10年到達を前にした雇い止めが社会問題化している。理化学研究所では、10年以上勤務した研究員ら380人が2023年3月末に雇い止めされた。

裁判などを経て、196人は何らかの形で雇用が継続されたものの、制度の根本的な見直しには至っておらず、今後も研究者が10年に到達する直前に雇い止めされる懸念が払拭されたわけではない。

(参考)理研の大量雇い止めは何だったのか 和解した研究者が明かす裁判の舞台裏と「10年ルール」の実態

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