長澤まさみ 季節が変わる、私が始まる【インタビュー後編】
2026年、人生における新たな一歩を踏み出した長澤まさみさん。撮影現場で交わされた祝福の言葉に、「ありがとうございます」と晴れやかに微笑んでいらっしゃいました。そんな彼女に着ていただいたのは、デザイナーが変わったばかりのメゾンからピックアップしたフレッシュなお洋服たち。ブランドの伝統的なコードは大切に守りつつ、新しい風が吹くようなコレクション……。まさに今の長澤さんにこそふさわしいルックの数々。ファッションについて、またこれからの長澤さん自身について、貴重なお話を聞かせていただきました。インタビュー前編とともにお楽しみください。
幸せを感じる言葉を使う時間を増やしたほうがいいなって
誰かと関わり、何かを受け取る日々の中で、これまで当たり前だと思っていた自分の癖にも、ふと目が向いた。
「人って、どうしても謙遜をしてしまいがち。“すみません”という言葉も、気づくと使っている。あれ? 謙遜している時間が人生の中で結構長いなと思い始めたら、もう少し“楽しい”とか“嬉しい”といった、生きている幸せを感じる言葉を使う時間を増やしたいと思うようになりました。たとえば現場で誰かにケアしてもらったとき、今までは反射的に“すみません”と言っていたんですけど、それを全部“ありがとう”に変えてみました。それだけで、場の空気も違うし、自分の心の持ちようも少し変わった気がして。最近、友人に言われたのは、“昔はもっと白黒がハッキリしていたけれど、今はだいぶマイルドになったね”って。曖昧なことを、曖昧なまま置いておけるようになったと。自分では、白黒ハッキリしている自覚がなかったので、少し意外な言葉でしたが、そう見えていたのかもしれないですね」
以前よりも、きっぱり決めなくていい。完璧に整えなくてもいい。そう思えるようになったことで、日常の過ごし方にも、自然と余白が生まれている。
「ちゃんと朝起きて、朝ごはんと昼ごはんも作って、という人間らしい生活をしています。難しいことはしないですけど、自分の手を動かして作った食事を、誰かと一緒に食卓を囲む。その時間があるだけで、気持ちが整う感じがします」
【BOTTEGA VENETA】ラコステやカルヴェンで経験を積んだルイーズ・トロッターが手がけた今季のコレクションは、世界中のファッショニスタの心を鷲掴みに。ジャケット¥579,700、セーター¥359,700、パンツ¥260,700※参考色、シャツ※参考商品(全てボッテガ・ヴェネタ/ボッテガ・ヴェネタ ジャパン)
ピラティスに加えて、ピアノや太極拳など、新しいことにも少しずつ挑戦している。
「太極拳の動きは、健康にもメンタルにもいいとのことで気になっていました。教えてくださる先生とも出会えたので、レッスンを楽しみにしているところ。他にも、友人が畑を始めるので、今年はそのお手伝いにも行きます。土に触れたり、自然の中に身を置いたりしながら、ちゃんと息抜きをしようと決めました。意識しないと、休むことすら後回しになってしまう仕事だからこそ、息抜きすると“決める”んです」
【JIL SANDER】ジル サンダーらしい研ぎ澄まされたピュアさを表現するのは、今季よりディレクションを務めるシモーネ・ベロッティ。トップス¥203,500、スカート¥313,500、シューズ¥162,800(全てジル サンダー/ジルサンダージャパン)トップス¥203,500、スカート¥313,500、シューズ¥162,800(全てジル サンダー/ジルサンダージャパン)
次の方向性について尋ねると、返ってきた答えは驚くほどシンプルだった。
「楽しむ、です。私は芝居に向かっているときはまっすぐで、役を演じるって本当に難しくて、感情をすり減らすし、簡単にさらっとできるものじゃないんです。でも、現場で先輩が教えてくれたんですが、“誰もが絞り出しながら演じていると思うよ”って」
だからこそ、かつてかけられた何気ない一言が、ずっと心に残っている。
「以前、日本アカデミー賞の場で、司会をされていた西田敏行さんに、“芝居をしていて楽しいですか?”と聞かれたことがあって。当時の私は“もう本当に大変で大変で”としか答えられなかったんです。すると西田さんが“いつか楽しくなるといいね”と言葉をかけてくださって。芝居って、楽しんでやっていいものなの? とすごく意外で。そのころは、そんなふうに捉える事を考えてなかったし、自分にできる事を一生懸命やらなきゃと思ってました、芝居に真剣だった」
当時は受け止めきれなかった言葉を、今は少し違った距離で見つめる。
「お芝居が難しいのは大前提として、でも、その中に楽しんじゃう気持ちを持ちながら向き合えたら、集中の質も変わってくる気がして。好奇心を持って、芝居と向き合っていきたいなと思っています」
学びは終わらない。まだ、続いていく。
「芝居の勉強をもっとしたい。最近、現場で芝居の話ができる俳優仲間ができて、それがすごく嬉しくて。芝居って、セッションであり化学変化。馴れ合うためじゃなくて、もっと深く向き合うために、人との距離も芝居との距離も、もう一段深いところへ。今は、そこに向かっていきたいです」
【GUCCI】ドレス¥3,575,000、イヤリング¥385,000、シューズ¥195,800(グッチ/グッチ クライアント サービス)
Profile_長澤まさみ(ながさわ・まさみ)/1987年生まれ、静岡県出身。2000年に映画『クロスファイア』で俳優デビュー。映画『MOTHER マザー』で第44回 日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞を受賞。近年の出演作に、映画『キングダム』シリーズ、『スオミの話をしよう』『ドールハウス』『おーい、応為』、ドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』、NODA・MAP『正三角関係』、Bunkamura Production 2025「おどる夫婦」などがある。
photograph:KATSUHIDE MORIMOTO
styling:MAHO NONAMI
hair:YU NAGATOMO[home agency]
make-up:SUZUKI
model:MASAMI NAGASAWA
text:HAZUKI NAGAMINE
otona MUSE 2026年4月号より

