手をつなぐ背中に芽生えた感情
翌朝。駅前で待ち合わせをすると、健吾はもう来ていた。
「ひなたー!」
大きく手をふる声に、陽向がぱっと顔をかがやかせる。
「パパー!」
かけよって抱きつく小さな体。その様子を見ていると、胸がぎゅっとしめつけられる。
「真由、いつもありがとうな」
健吾が、少し照れくさそうに言う。
「陽向、たのしみにしてたからね」
それだけの会話なのに、昔よりずっとおだやかさを感じた。
電車のホームで、陽向と健吾は私の少し先を歩く。
陽向は健吾と手をつなぎ、何度も彼を見上げて話しかける。健吾も、大げさなくらいのあいづちと笑顔で応える。
次第に、2人の背中がならんで遠ざかっていく。笑い声だけが、風に乗って聞こえた。
──離婚したはずなのに。もう、家族じゃないはずなのに。
なのに、目の前の光景は、どこかあたたかい。
あのころは、怒りと悲しみしかなかった。うらぎられた気持ちでいっぱいだった。
(でも今は、ちがう)
胸の奥にあるのは、複雑だけど、確かにあたたかい何か。それが何なのか、私はまだ言葉にできない。
ただひとつ、分かっているのは…
私は今、2人の男性の“優しさ”の間で、静かにゆれているということ。
あとがき:「過去」は本当におわるのか
離婚は関係の終わりでも、記憶までは消してくれません。たのしかった時間とうらぎられた痛みが同時に存在するとき、人の心は簡単にはわり切れないものです。
完全にきらいになれない気持ちは、未練なのでしょうか。それとも、"家族だった証"なのでしょうか。真由の心のゆれは、過去と向き合う過程そのものなのかもしれません。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
記事作成: tenkyu_writing
(配信元: ママリ)

