娘が高校生だったころのことです。進路を決める時期が近づき、私は当然のように将来の話を切り出しました。けれど、その何げない問いかけが、娘の胸の奥にたまっていた思いを一気にあふれさせることになるとは、そのときの私は想像もしていませんでした。
娘の涙と、突きつけられた言葉
「どういう道に進みたいの?」「将来、何になりたいの?」と尋ねた私に、娘はイライラした口調で言いました。
「今までなりたいものがあったけど、私がそれを口にすると、お母さんは『そんなのなれるわけない』『そんな仕事じゃ食べていけない』って言って、私の夢を全部つぶしてきたじゃない」
さらに、「お父さんと2人して、公務員になれって、ずっとプレッシャーかけてきたじゃない」と言って、娘は泣き出しました。私は本当に驚きました。そんなつもりはなかった、と思いながらも、娘の涙を前に何も言えなくなりました。
「そうだったの? ごめんね。で、本当は何になりたかったの?」と、私は思いつくままに聞きました。「イルカのトレーナー? 漫画家? ペットショップの店員さん? 獣医さん?」。けれど娘は、「違う」「違う」と首を振るだけで、本当の夢は教えてくれませんでした。
公務員への道と、その先に待っていた現実
その後、娘は公務員試験をいくつか受けましたが、すべて不合格でした。就職は諦め、推薦入試で大学へ進学することになりました。大学では努力を重ね、図書館司書資格と教員免許を取得。高校で臨時職員として5年間勤務した後、採用試験に合格し、正規の高校教師になりました。
私は胸をなで下ろしました。結果的に「安定した道」に進んでくれたのだと。しかし、その後、過酷な職場環境の中で娘は体調を崩し、約5年間休職しました。そのとき、娘がぽつりと言った言葉が、今も心に残っています。
「公務員でよかった。こうして病気で休んでも、解雇されないし、少しだけど給料ももらえるから」。その言葉を聞いたとき、安堵と同時に、言いようのない思いが込み上げました。

