誠実な恋人・直人との関係は順調に見える、真由。しかし、無意識に元夫・健吾とくらべてしまい、やさしさの中に“物足りなさ”を感じる自分に戸惑う。
やさしさに包まれる時間
「ひなたくん、袋持つよ?」
直人が身体を低くして、手を差し出す。陽向は少し緊張した顔で首を横に振った。
「ううん。ぼくもてるから、だいじょうぶ!」
得意げな顔。その様子を見て、直人の目元がくしゃっとなる。
「すごいねえ。もう立派なお兄さんだね!」
いつものやさしい口調。押しつけがましくもなく、距離を急に縮めることもない…。絶妙な塩梅だった。
陽向はもともと人見知りだ。大人の男性には特に慎重になる。でも、直人には、少しずつ心を開いている。それが、私にはありがたかった。
スーパーの通路をならんで歩きながら、私は思う。
(こういう人と再婚できたら、安心なんだろうな)
おだやかで、どならない。感情の波が小さくて、約束を守る人。
(健吾とは、正反対だ──)
直人と出会ったのは、離婚から2年がたったころだった。ようやく生活が落ち着いてきて、心にも少し余白ができてきたころ、共通の知人の紹介だった。
「子どもがいるんだよね」
最初に私は、彼にそのことを伝えた。それで、はなれていく人なら「それまで」だと思っていた。
直人は静かにうなずいた。
「そうなんだね」
それだけだった。余計な詮索もしない。“覚悟”を問うような言葉もない。ただ、自然に受け止めてくれた。
やがて、健吾の不倫のことも話した。正直、こわかった。「なんでそんな人と結婚したの?」って思われるかもしれない。
でも直人は、だまって聞いたあと、こう言った。
「真由さんがわるいわけじゃないよ」
その一言で、胸がいっぱいになった。責められなかったことが救いだった。
そうしてゆっくり距離が縮まり、私たちは付き合い始めた。あせらない関係。誠実で、丁寧で、未来の話もきちんとできる。私は、この人とならおだやかに歳を重ねられると思った。
ふとした瞬間に生まれる“ズレ”
「ママ、ポテト!」
陽向の声で、ふとわれに返る。買い物をおえ、3人でフードコートにすわっていた。
「ひなたくん、ちゃんと野菜も食べないとね」
「え〜」
陽向が顔をしかめる。私は思わず笑う。
「あはは、健吾だったら、“パパもきらいだから仲間だな!”って言いそうだなあ…」
ぽろっと、口から出た。(しまった)と、あわてて目を伏せた。一瞬、直人との間の空気が止まる。
直人は小さく笑った。
「ははっ……でも、好ききらいが多いのもこまっちゃうし、ね?」
まちがっていない。でも……。
「はは…だよね」
私は、あいまいに笑う。なんとなく気まずい空気の中、陽向がポテトを落とし、ケチャップがテーブルについた。

