贅沢な悩み、それでも消えない違和感
「あ、ほら、よそ見しない!」
私がいうより早く、直人がティッシュでていねいに拭く。
「大丈夫、大丈夫。だれでも失敗はあるから」
傷付けない。優しくて、落ち着いていて、大人だ。
それなのに──どこかで、"物足りない"と思ってしまう自分がいる。
健吾なら、きっと大げさにさわいで、陽向を笑わせて、場の空気を一瞬で変える。私はその陽気さに、何度も救われてきた。
直人との会話は、おだやかに流れる。でも、心が跳ねる瞬間は少ない。笑いのツボが、ほんの少しだけズレている。その“ほんの少し”が、なぜか引っかかった。
贅沢な悩みだと思う。やさしくて、誠実で、陽向のことも大切にしてくれる…。
(これ以上、何を求めるの?)
そう自分に問いかけながらも、胸の奥に、ほそい糸のような違和感が残る。
(──やさしさだけで、足りる?)
フードコートのざわめきの中で、私はその問いを、心の奥にしまい込んだ。
あとがき:「安心」と「ときめき」のあいだで
結婚を考えるとき、多くの人が一度はまようのではないでしょうか。
安心できる相手か、それとも一緒にいてたのしい相手か。どちらも大切ですが、両方が同じ形でそろうとは限りません。真由の違和感は、わがままではなく、未来を真剣に考えている証。「選ぶ」ということは、何かを手放すことでもあるのかもしれません。
※このお話は、ママリに寄せられた体験談をもとに編集部が再構成しています。個人が特定されないよう、内容や表現を変更・編集しています
記事作成: tenkyu_writing
(配信元: ママリ)

