「研究成果が歪められてはならない」学術3団体がアイヌヘイトに異例声明、遺骨問題から踏み出した一歩

「研究成果が歪められてはならない」学術3団体がアイヌヘイトに異例声明、遺骨問題から踏み出した一歩

アイヌ民族に対する差別的な言動がSNSで広がる中、日本考古学協会、日本人類学会、日本文化人類学会の3つの学術団体は昨年12月、アイヌ民族の先住性を否定する“学術的根拠”があるとうたうヘイトスピーチに対し、警鐘を鳴らす声明を発表した。

声明では、150年にわたる研究の蓄積が「アイヌ民族が独自の文化・社会をもった先住民であることを明らかにしてきた」と明記。

そのうえで「研究成果が歪めて利用されることなく、一般社会において個々人が日本列島内外の人の多様性を理解し、受け入れ、尊重し合う、健全で強く安心感のある社会の実現に貢献することが、私たちの願いです」とうったえた。

明治以降、考古学、自然人類学、文化人類学は密接に発展してきたが、3つの団体が合同でこのような声明を出すのは極めて異例だ。なぜ今、発表に踏み切ったのか。

日本考古学協会の石川日出志会長に背景を聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●研究の名のもとに奪われてきた遺骨

アイヌ民族の研究が本格化したのは、明治期だ。石川会長はこう振り返る。

「東京大学を中心に人類学会が立ち上がって以来、日本の人類学は自然人類学が中心となっていきました。

縄文時代の遺跡の発掘調査もおこなっており、考古学と明確に線引きできない学問領域として発達してきました。日本列島の人類史を研究する過程で、当初からアイヌも研究対象となっていました」

明治以前のアイヌ民族は文字記録をもたない社会であり、遺物や遺構を中心に研究する考古学は有効と考えられていた。

しかし、現在の研究倫理から見れば到底許されない行為もおこなわれていた。人類学の研究者らが、アイヌ民族の墓から遺骨や副葬品を無断で持ち去り、収集していたのだ。

文部科学省の調査では、国内の大学や施設にアイヌの遺骨や副葬品が保管されていることが確認されている。遺骨は12大学に1574体、個体が特定できないものは364箱分にのぼる。

学界でも長年課題とされてきたこの問題が動き始めたのは、2000年代に入ってからだ。世界的に先住民の権利回復が大きな課題となる中、2007年には国連総会で「先住民の権利に関する宣言」が採択された。

国内でも2008年、衆参両院において「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が採択され、国として総合的な政策を整備することが求められた。2019年5月には「アイヌ施策推進法」が施行され、アイヌ民族が「先住民族」であることが初めて法律に明記された。

●遺骨問題に訪れた転機

法整備が進む中、アイヌ民族をとりまく課題の一つであった遺骨問題に転機が訪れる。2015年に政府が設置した「これからのアイヌ人骨・副葬品に係る調査研究の在り方に関するラウンドテーブル」だ。

「北海道アイヌ協会、日本人類学会、日本考古学協会が参加し、研究者が当事者として初めてアイヌの方々と同じテーブルにつくことができました。これを機に真摯に対応しようと議論を重ねました」

日本考古学協会が参加した背景には「考古学もアイヌの遺骨問題に無関係ではない」という自覚があったからだ。

「遺骨や副葬品を管理してきたのが考古学研究者だったケースも全国にあります。当事者として責任を果たす必要がありました」

2017年4月、ラウンドテーブルは過去の不適切な収集を反省し、今後の研究の在り方を示す最終報告書をまとめた。そこでは、アイヌの尊厳や権利を尊重する倫理的枠組みの構築が提言された。

その後、日本文化人類学会も加わり、北海道アイヌ協会と3団体で「アイヌ民族に関する研究倫理指針」の策定が進められている。プロセスの中で重視されたのが、遺骨問題への謝罪である。

2024年4月に日本文化人類学会、2025年12月には日本考古学協会と日本人類学会がそれぞれ謝罪声明を発表した。人類学を牽引してきた東京大学も2025年10月、公式サイトで正式に謝罪している。

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