「研究成果が歪められてはならない」学術3団体がアイヌヘイトに異例声明、遺骨問題から踏み出した一歩

「研究成果が歪められてはならない」学術3団体がアイヌヘイトに異例声明、遺骨問題から踏み出した一歩

●先住性を否定する「根拠」の問題点

しかし、アイヌ民族の先住性を否定する主張の一つが、「アイヌ民族は13世紀頃に外部からやってきた」というものだ。なぜなのか。石川会長はこう説明する。

「北海道の時代区分では、アイヌ文化期が13世紀から近世までとされています。それを根拠に、以前にあった続縄文文化や擦文文化との連続性はなく、アイヌ文化は外部からやってきた集団で、先住民ではないという主張がされています。

北海道では、旧石器文化、縄文文化と続き、その後、続縄文文化を経て、擦文文化となる。その擦文文化がサハリンから来たオホーツク文化と融合、本州の和人の文化も受容して、近現代のアイヌの人々につながるという歴史が明瞭になってきています。

しかし、それぞれ『文化』と名付けられているために、まるで異なる集団が存在したかのように誤解されてしまい、その系譜がわかりづらくなってしまっているのです」

つまり、和人の歴史のように時代ごとに「弥生時代」「古墳時代」と名付けてあれば同じ集団であると理解しやすいが、北海道の場合は「文化」と呼称されているために、時代ごとに異なる集団がいたかのような印象を与えているのだ。

「本来であれば、弥生時代や古墳時代という用語と同じように、前近代アイヌ文化期といった用語のほうが適切なのではないかという意見があり、考古学界でも議論となっています」

●正しい歴史を発信することが「力」に

学術成果の一部が切り取られ、ヘイトに利用されていることに対し、学界として何ができるのか。3団体は議論を重ね、声明発表に至った。

「学界は運動体ではありません。しかし、学術成果を悪用し、非科学的な主張に組み込むことは容認できないという立場を明確にしました」

大学などで研究資料として保管されてきたアイヌ民族の遺骨は、出土地域への返還が進められている。ただちに返還が難しいものは、ウポポイの慰霊施設で受け入れている。

「謝罪も口先だけでなく、許していただいたうえで、今後の研究活動のあり方を示していきたいです」

ヘイトスピーチについても、学術的事実を丁寧に発信し続けることが必要だという。

「ヘイトスピーチは実は少数の人たちがネットで広めているものです。学術成果や歴史的事実を広く正しく伝えることが、私たちにできる唯一の力だと考えます」

人類学や考古学は、歴史の中で政治的に利用されてきた側面もある。今問われているのは、学問としての責任と矜持である。

【主な参考文献】

・「もう二つの日本文化」(藤本強著/東京大学出版会)
・「日本考古学の歩み」(勅使河原彰著/名著出版)
・「アイヌと縄文」(瀬川拓郎著/ちくま新書)
・「つながる アイヌ考古学」(関根達人著/新泉社)

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