スマホ内斜視(スマホ急性内斜視)とは、スマートフォンやタブレットなど小さな画面を長時間近くで見続けることで起こる目のトラブルです。近年、この症状を訴える方が若い世代を中心に増えており、デジタル機器の使い過ぎが一因と指摘されています。
片方の目の黒目が内側に寄ってしまい、物が二重に見える複視などの症状が現れるのが特徴です。本記事では、スマホ内斜視の基礎知識から通常の内斜視との違い、大人と子どもの発症傾向や将来への影響、症状の見た目や進行、そして治し方や予防法までを解説します。

監修医師:
栗原 大智(医師)
2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。
スマホ内斜視について

スマホ内斜視とはどのような状態ですか?
そもそも内斜視とは左右どちらかの目が内側へ寄ってしまっている状態をいいます。なかでも、スマートフォンや携帯ゲーム機などの画面を長時間近距離で見続けた後に片目が内寄りになるものをスマホ内斜視(スマホ急性内斜視)と呼びます。
本来、健康な目は物を見るとき両目が同じ方向を向き、二つの目で焦点を合わせることで立体的に見えています。しかし、スマホ内斜視になると、一方の目が内側に向いたままもとに戻りづらくなり、両目の視線がズレてしまいます。その結果、ピントが合いにくくなり、遠くを見ると物が二重に見える(複視)状態を自覚します。
通常の内斜視とスマホ内斜視の違いを教えてください
通常の内斜視にはいくつか種類があり、生まれつき起こるものや遠視が原因で幼児期に発症する調節性内斜視やそのほかの目の病気や神経疾患によって生じるものなどがあります。従来型の内斜視では症状や原因によって対策も異なり、多くは徐々に現れ、幼少時に気付かれることが多いです。
一方、スマホ内斜視はデジタル機器の至近距離での長時間使用によって発症する後天性の内斜視です。特に、スマホ内斜視では、長時間の近距離作業で両目を内側に寄せる状態に慣れすぎてしまい、遠方を見る際に目をきちんと外側に開くことができなくなります。
また、幼少期に発症する先天性の内斜視では脳が適応して複視を感じにくい場合もありますが、スマホ内斜視はそれまで両目で正常に見えていた方に急に起こるため複視などの自覚症状が強いことも大きな違いです。さらに、スマホ内斜視は原因がスマートフォンやポータブルゲーム機であるため、適切な使用や治療によって改善することも特徴です。
スマホ急性内斜視とスマホ内斜視は異なる病気ですか?
いいえ、基本的に同じ状態を指します。スマホ内斜視は正式にはスマホ急性内斜視と呼ばれます。一般には略してスマホ内斜視とも呼ばれていますが、両者に本質的な違いはありません。したがって、スマホ内斜視と診断された場合、それはスマートフォンの長時間利用によって生じた急性発症の内斜視であると理解してよいでしょう。
【スマホ内斜視】大人と子どもの違いと将来への影響

スマホ内斜視は大人と子どものいずれも発症しますか?
子どもから大人まで、どちらでも発症する可能性があります。実際、10代~20代の若い世代での報告が多いとされています。しかし、決して子どもや若者だけの問題ではなく、スマートフォンやタブレットを長時間使う生活を送っていれば、30代以上の大人でも起こりえます。近くを見る作業が多い現代では、社会人も1日中パソコンやスマートフォンの画面を見ていることが珍しくなく、大人でも「ふと遠くを見たときに物が二重に見える」といった症状に気付いて受診し、スマホ内斜視と診断されるケースがあります。また、幼児でも保護者の管理下になく長時間スマートフォンの動画を視聴していた場合に発症することもあります。つまり、年齢に関わらず、スマートフォンの長時間あるいは近距離使用習慣があれば誰でも発症リスクがあるといえます。
参照:『若年者の後天共同性内斜視の特徴を明らかに 中高生に多いことや、改善しやすい人の特徴がわかりました』(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター)
子どもと大人のスマホ内斜視に違いはありますか?
子どもと大人のスマホ内斜視には症状の自覚と訴え方に差があります。大人は症状に気付いて「物が二重に見える」「焦点が合わない」と自分で訴えますが、小さなお子さんは異変をうまく言葉にできないことがあります。
そのため、子どもの場合、周囲の大人が仕草や行動から気付くケースが少なくありません。具体的には、まばたきの回数が増える、物をよくつかみ損ねる、顔を斜めに傾けて片目で見ようとする、といった様子がみられます。これは、子ども自身は見えにくい原因が両目のずれによるものとわからず、ピントを合わせようと瞬きを繰り返すなど、片目で見たほうが二重に見えないため自然とそうした行動をとってしまうためです。
子どもがスマホ内斜視になると将来の視力や見え方に影響がありますか?
適切に対処せず放置すると、将来にわたって両目でものを見る力(立体視)が損なわれる可能性があります。スマホ内斜視では、初期には複視に悩まされますが、これを放置すると脳がズレている片方の目の映像を無視するようになることがあります。脳が二重像を消すために片目の入力を抑制してしまうと、二つの目で物を見る両眼視機能が失われ、立体的に距離感をつかむことができなくなってしまいます。これは大人にも子どもにも起こりうる現象ですが、小さい頃にこれが起こると本来発達するはずだった奥行きに関する知覚が十分に養われなくなり、生活に支障をきたすおそれがあります。

