朝起きて顔を洗おうとしたとき、重いものを持ち上げようとしたとき、ふとした動作の直後に腰に激痛。それが「ギックリ腰」です。正式には「急性腰痛症」と呼ばれ、誰にでも突然起こる可能性がありますが、レントゲンを撮っても異常なしと言われることも。そこで、ギックリ腰の原因や対処法、再発を防ぐためのリハビリテーションについて、梶谷先生(上野原梶谷整形外科)に解説してもらいました。

監修医師:
梶谷 光太郎(上野原梶谷整形外科)
東京慈恵会医科大学卒業、その後、東京慈恵会医科大学や県立厚木病院(現・厚木市立病院)、谷津保健病院などで経験を積む。2007年、山梨県上野原市に「上野原梶谷整形外科」を開院、院長となる。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本整形外科学会認定スポーツ医。
ギックリ腰とは? なぜ起こるの?
編集部
急に腰が痛くなって病院でレントゲンを撮ったのですが、「異常はない」と言われました。
梶谷先生
それはいわゆる「ギックリ腰(急性腰痛症)」の症状かと思います。レントゲンは骨折や明らかな構造的異常を調べる検査なので、筋肉や関節周囲の炎症・障害までは映らないことがほとんどです。ギックリ腰は、多くが椎間関節や仙腸関節の異常や椎間板の急激な膨隆(膨張して大きくなっていること)、筋肉や筋膜への過度な負担などによって起こるため、レントゲン画像では異常が見られないのです。
編集部
そもそもギックリ腰とは、どんな状態なのでしょうか?
梶谷先生
ギックリ腰は、腰周辺の組織に突然負荷がかかり、炎症や微細な障害が起こった状態です。さらに広い意味では腰椎の圧迫骨折や腫瘍性病変なども含まれます。はっきりした原因が特定できないことも多く、急な動作や前かがみ、重いものを持ったときに突然強い痛みが走ることから、「魔女の一撃」とも言われます。
編集部
なぜ、突然そんな激しい痛みが出るのですか?
梶谷先生
腰は日常的に大きな負荷がかかる部位です。姿勢の乱れや筋力低下、柔軟性の不足が積み重なると、何気ない動作でも一気にバランスが崩れ、関節や椎間板の一部、筋肉や筋膜などが急激に障害を受けてしまうのです。蓄積した疲労やストレスも関係していると考えられています。
編集部
ギックリ腰になったら、まず何をすればよいのでしょうか?
梶谷先生
強い痛みがあるうちは無理に動かず、できるだけ安静にすることが基本です。ただし、数日経って痛みが和らいできたら、無理のない範囲で徐々に動くことをおすすめします。自己流であれこれおこなうのは逆効果となることもありますが、安静にしすぎると、かえって治りが遅くなることもあるため、バランスが大切です。
レントゲンで「異常なし」でも対処法はある! 医師が解説!
編集部
「レントゲンで異常なし」と言われたら、もう対処法はないのでしょうか?
梶谷先生
そうとは限りません。レントゲンで異常がなくても痛みがあるなら、筋肉や関節の状態に問題がある可能性があります。リハビリテーション(以下、リハビリ)に力を入れているクリニックでは、MRIや超音波を使った精査で痛みの背景をしっかり評価し、多面的なアプローチが可能です。整形外科専門のリハビリ施設を受診するのもひとつの選択肢です。
編集部
そういった整形外科では、どんなことをするのですか?
梶谷先生
それぞれの医療機関にもよりますが、たとえばハイドロリリース(超音波診断装置[エコー]を用いて、痛みの原因となっている神経や筋膜、腱の周囲に薬液を注入し、回復を図る治療法)、仙腸関節ブロック、椎間関節ブロックなどが代表的かと思います。ほかにもさまざまな方法で、多角的にアプローチします。
編集部
リハビリでは、どんなことをするのですか?
梶谷先生
現在の状態や、個々の姿勢や動作の癖などをチェックした上で、ストレッチや体幹トレーニング、骨盤の安定性を高める運動などをおこないます。特に股関節、椎間関節に対するアプローチが多いかと思います。また、再発防止も視野に入れ、腰に負担をかけない立ち方や座り方の指導もおこないます。個々の状態に合わせてプログラムを組むため、効果的かつ安全に進められます。
編集部
市販のコルセットなどは使ってもいいのでしょうか?
梶谷先生
つけて楽になるのであれば、一時的なサポートとしてコルセットを使うのは有効です。ただし、長期間の使用は筋力の低下を招くこともあるため、痛みが落ち着いたら徐々に外していくことが理想です。コルセットに頼りすぎず、自分の筋力で支えられるようになることが大事です。

