その言葉を最後に、長年連れ添った妻が行方不明になった。残された夫と息子が知らない、妻=吉岡ヨシ子という女性と、夫婦の形とは――。

妻、母、それ以外の自分って?
『うちのツマ知りませんか?』(オーバーラップ 2026年1月発売)は、第25回手塚治虫文化賞短編賞受賞作家、野原広子さん初のクライムサスペンス。『消えたママ友』『妻が口をきいてくれません』などで人間心理を鋭くえぐってきた野原さんの観察眼が、今回も冴えわたります。
吉岡ヨシ子、お見合い結婚した夫の吉岡康とふたり暮らし。一人息子の達也は独立し、5歳年上の女性と円満な事実婚生活。ヨシ子はパート勤務の主婦という、どこにでもありそうな平和な家庭です。夫が仕事から帰宅し、ヨシ子が作る夕食を囲みつつ、ヨシ子が夫にたわいもない話をする日々。夫いわく“中身のない話”には、ヨシ子自身の姿もなかったのかもしれません。
妻? 母? 本当の私は?
ヨシ子の自我が目覚めた時、彼女はある破壊的な行動を起こします。
















世の夫は、妻のことを何も知らない
ヨシ子が出奔した後に、パート先で“ある事実”が発覚。まさかヨシ子に限って、と夫は半信半疑になるのですが、改めて、ヨシ子のことを何も知らないと、気づかされるのです。世の夫はなぜ、妻を、透明人間にしてしまうのでしょうか。うちの妻に限って、という常套句は、妻の何を見てそう断言しているのでしょう。
結婚してしまえば、妻で母。結婚した女性の本当の姿は、夫にも、そして本人にもわからなくなってしまうのです。この作品でも、長年連れ添ったにもかかわらず、妻のことをまるで見えていない夫の姿があぶりだされます。そしてヨシコの心に封印されていた、ある事実と人物も、夫は知る由もないのです。
不安に駆られた夫が発見したのは、家のゴミ箱にあった一枚の紙切れ。そこには、見知らぬ男の名前と電話番号が書かれていました。

