強いストレスや不安が続くと、動悸や胸の痛みなどの症状を引き起こすことがあります。主に自律神経の乱れが原因で、心と体の両面からケアすることが大切です。今回は自律神経を整え、心臓病の予防にもつながる生活習慣について、「KENカルディオクリニック柏」の中村先生に解説していただきました。

監修医師:
中村 賢(KENカルディオクリニック柏)
東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。その後、東京慈恵会医科大学附属病院、明理会中央総合病院、埼玉県立小児医療センター、埼玉県立循環器・呼吸器病センターなどで心臓外科医として経験を積む。2023年、千葉県柏市に「KENカルディオクリニック柏」を開院。医学博士。日本外科学会専門医・指導医、日本循環器学会専門医、心臓血管外科専門医認定機構修練指導医。
ストレスが心臓病のリスクを高める?
編集部
ストレスで心臓に悪影響が出ることは、本当にあるのでしょうか?
中村先生
はい、強いストレスは心臓に直接的な負担をかけます。精神的な緊張や不安が続くと交感神経が優位になり、血圧や心拍数が上昇しやすくなります。その結果、動脈硬化が進んだり、心筋梗塞や狭心症のリスクが高まったりすることがあるのです。
編集部
ストレスが心疾患の引き金になることもあるのですね。
中村先生
ストレスがかかると、自律神経の交感神経が過剰に働き、アドレナリンなどのストレスホルモンが分泌されます。この状態が続くと血管が収縮し、心臓に負担がかかります。さらに、血小板が凝集しやすくなり、血栓による心筋梗塞のリスクも上がります。
編集部
どのような人がストレス性の心疾患に注意すべきですか?
中村先生
もともと高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病を持っている人は、ストレスによって心疾患を発症しやすくなります。また、几帳面で責任感が強い、ストレスをためこみやすい性格の人も要注意です。家庭や職場などで多様な役割を求められる中高年世代は、特に気をつける必要があります。ただし、近年では若年化している傾向がみられ、20~30代の人でもストレスによる心疾患を発症するケースが見受けられます。
編集部
ストレスによる心臓病の例には、どのようなものがありますか?
中村先生
代表的なものに、「たこつぼ型心筋症」があります。強い精神的ショックを受けた直後に、心筋が一時的に収縮障害を起こし、心不全のような症状が表れるのが特徴的です。そのほか、心臓には異常がないのに、ストレスが引き金となって動悸などの症状が強く出る疾患に「心臓神経症」があります。
心臓神経症とは? ストレスとの関係は?
編集部
心臓神経症について、もう少し詳しく教えてください。
中村先生
心臓神経症とは、胸の痛み、動悸、息苦しさなど、心臓に関連した症状があるにもかかわらず、心電図や血液検査、心エコーなどでは特に異常が見つからない状態を指します。心臓神経症の発症には、ストレスや不安による自律神経の乱れが大きく関与しているとされています。
編集部
心臓神経症の症状は、どのように表れるのですか?
中村先生
胸の痛み、動悸、息苦しさなどの症状が繰り返し起こります。「刺すような痛み」「心臓がズキズキ、あるいはチクチクする」「締めつけられるような感じがする」と表現する患者さんもいますね。なかには「命に関わるのではないか、呼吸が止まるのではないか」と大きな不安を感じる人もいます。
編集部
症状の表現は多岐にわたるのですね。
中村先生
そうですね。加えて、狭心症や心筋梗塞のように激しい胸の痛みや圧迫感を覚える人もいます。心臓神経症が前駆症状となり、その後に狭心症や心筋梗塞を発症する人も見受けられます。
編集部
心臓神経症は、放置しても大丈夫なのでしょうか?
中村先生
心臓神経症そのものは命に関わる病気ではありませんが、放置しておくと「また症状が出たらどうしよう……」という不安に駆られたり、不眠や抑うつといった症状を引き起こしたりすることもあります。なかには実際に狭心症や心筋梗塞を発症するケースもあるので、症状が見られたら一度、専門医に相談することをおすすめします。
編集部
心臓神経症になりやすい人の特徴はありますか?
中村先生
几帳面で真面目、責任感が強いタイプの人が発症しやすい傾向にあります。また、過去に心臓に関する不安を抱えた経験があると、その記憶が症状を誘発することもあります。
編集部
心臓神経症を発症しやすい年齢はありますか?
中村先生
心臓神経症は年齢問わずに発症しますが、注意したいのは中高齢の場合です。若い人の場合はほとんど基礎疾患がないので、多くのケースは心臓の痛みや動悸などの症状だけでとどまりますが、中高齢になると高血圧や糖尿病といった疾患を抱えている人が増加します。そのため、心臓神経症が引き金となって、ほかの心疾患を引き起こすこともあります。

