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美術史における「コピー」は悪だったのか?模写・工房・贋作そして「唯一性」の誕生

アンディ・ウォーホルという「合法的なコピー」

1024px-Campbell's_Soup_Cans_by_Andy_WarholCampbell's Soup Cans by Andy Warhol, Public domain, via Wikimedia Commons.

「コピー」の問題は、20世紀のポップ・アート(大衆文化や消費文化をテーマにした芸術運動)になるとまた別の次元に突入します。その中心にいたのがアンディ・ウォーホル(1928-1987)です。

ウォーホルは1962年にロサンゼルスのフェラス・ギャラリーで、32枚のキャンベル・スープ缶の絵画を発表しました(《キャンベルのスープ缶》シリーズ、1961-62)。

これは既存の商品パッケージのデザインをそのまま絵画にした作品で、当初は「こんなものが芸術なのか」と嘲笑されましたが、やがてポップ・アートを代表する傑作として評価されるようになります。

ウォーホルがやったことは、あえて大胆に言えば「コマーシャルデザインのコピー」です。しかし彼は、それを「盗作」ではなく「アプロプリエーション・アート(流用美術)」として意図的に行いました。

アプロプリエーションとは、既存のイメージや物を文脈ごとずらして使うことで、新たな意味や問いを生み出す手法のことです。ウォーホルは、スーパーマーケットの棚に並ぶ缶詰を美術館の壁に並べることで、「高い芸術と低い大衆文化の境界はどこにあるのか」「複製と唯一性とは何か」という問いを作品そのものの中に埋め込みました。

ウォーホルは同シリーズのために、キャンベル社の許可を最初から得ていたわけではありませんでした。同社は当初、権利侵害として対応を検討しましたが、結果的にウォーホルの作品が無料の宣伝になっていることを認め、黙認しました。この経緯は「アプロプリエーション」がいかに法的グレーゾーンにあるかを示しています。

ウォーホルは後にこう言っています。「ポップを理解すれば、もう標識を同じようには見られない。そしてポップで考えるようになれば、アメリカをもう同じようには見られない」。彼の作品は単なる「コピー」ではなく、コピーという行為そのものを素材にした問いかけだったのです。

「本物」の価値はどこにあるのか——現代への問いかけ

1024px-Han_van_Meegeren,_werkend_aan_'Christus_temidden_van_de_schriftgeleerden',_om_te_bewijzen_dat_hij_de_Emmaüsgangers_van,_RP-F-2005-10ハン・ファン・メーヘレン、『律法学者たちの中のキリスト』制作中。エマオへの道を行く人々(RP-F-2005-10)の作者であることを証明するため。, Public domain, via Wikimedia Commons.

ここまで見てきた歴史を整理すると、「コピーは悪か」という問いへの答えは時代によって大きく異なることが分かります。古代ローマでは敬意の表現、ルネサンスでは技術の証明、近代以降は徐々にタブー視され、現代ではコピーライト(著作権)という法的な枠組みの中で厳しく管理されるようになりました。

美術は「表現の唯一性」に特別な価値を置く唯一の表現ジャンルです。例えば文学では、一冊の本を購入するとき、読者が欲しいのは「内容」であり、初版本かどうかはほとんど関係ありません。ところが美術においては、たとえ視覚的に区別がつかなくても、オリジナルと複製では価値が天と地ほど違います。これはなぜでしょうか。

ベンヤミンの「アウラ」論はこれに一定の答えを与えてくれますが、経済的な観点からも考える必要があります。美術作品の価値は、作品の美しさだけでなく「それが制作された歴史的な文脈」「その時代の空気」「作者がその場で手を動かしたという事実」によって支えられています。

ファン・メーヘレン事件は、この構造を見事に暴き出しました。贋作が「フェルメール」として鑑定された瞬間から価値を持ち、贋作と判明した瞬間に価値を失う。これは、私たちが作品そのものを評価しているのか、それとも「名前と物語」を評価しているのかという問いを突きつけます。

現代においても、この問いは解決されていません。NFT(非代替性トークン——ブロックチェーン技術を使って唯一性を証明するデジタル証明書)の登場は、デジタル時代における「オリジナル」の概念を再定義しようとする試みと見ることもできます。ただし、技術が「唯一性」を保証できても、それが本当に「アウラ」を生み出せるかどうかは別問題です。

配信元: イロハニアート

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