寿司をテーマに27年続く漫画『江戸前の旬』をめぐり、日本文芸社は3月5日、コミックス130巻の裏表紙イラストについて著作権侵害があったとして謝罪し、連載を停止すると発表した。あわせて、これまで出版した作品に法的な不備がなかったかの確認を進めるという。
同社によると、東京・神楽坂にある寿司店から「写真の著作権を侵害している」との指摘があった。
同社は公式サイトで、寿司店が提供した料理写真と問題となったイラストを並べて掲載。「作品制作にあたり適切な著作権処理を行うべき作家がそれを怠ったこと」「編集部がチェック、指摘できなかったこと」などが原因だったとして謝罪した。
他人の写真やイラストを下敷きにして、トレースや模写により作品を制作することは、トレースパクリ(トレパク)などと言われてSNSで炎上するケースが少なくない。
写真を参考にしてイラストを描いた場合、法的にはどのような点が問題になるのだろうか。漫画やアニメなどの知的財産権にくわしい舟橋和宏弁護士に聞いた。
●まず問題となるのは「写真の著作物性」
──写真をトレースしてイラストを描く行為は、これまでも広くおこなわれてきました。今回のケースはどのように考えればよいのでしょうか。すぐに著作権侵害と断定できるものなのでしょうか。
まず問題となるのは、当該写真に著作物性が認められるかどうかです。
著作物は創作的な表現であることが必要ですので、著作物性を判断するにあたっては創作性が認められるか検討します。
写真の創作性は、被写体の選択・組合せ・配置、構図やカメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光など)、陰影の付け方、色彩の配合、部分の強調・省略、背景などの要素を踏まえて判断されています(知財高裁平成18年3月29日判決など)。
創作性は、著作物性の要素です。
今回の写真について考えると、被写体である飲食物の選択や配置をカメラマンが決めていたのであれば、創作性が認められる可能性があります。実際には、飲食店側が見栄えなどを考えて配置を決めた可能性もあるでしょう。
また、飲食物の紹介写真という性質上、構図などについて選択の幅はそれほど大きくないともいえます。そのため、創作性の程度は必ずしも高いとは言えないと考えられます。
このように創作性の程度が高いとは言えない場合、デッドコピーのようなそのまま複写したような態様でなければ、著作権侵害ではないと判断される可能性があります。そのため、すぐに著作権侵害であると断定することは難しいでしょう。
●イラスト化して「本質的特徴」が残るかがポイント
──今回のように写真をもとにイラスト化した場合、法的にはどの点が問題になるのでしょうか。
今回のイラスト化についてですが、日本文芸社が公表した写真から考えると、当該写真の表現上の特徴は、飲食物の色つややみずみずしさといった点にあると考えられます。
しかし、こうした写真の特徴はイラスト化の過程で捨象されているともいえます。
そうなると、元の画像を参考にしていたとしても、著作物の本質的な特徴を直接感得できないとして、複製・翻案権の侵害にあたらないという見解も成り立ちます。そういったことから、Xにおいて私も同様の見解を述べました。
もちろん、これは私の考えであり、実際の裁判で「著作権侵害である」と判断される可能性もあります。
ただ、仮に著作権侵害が認められたとしても、編集部や作者が連載休止やこれまでの発刊作品全体を振り返るまでの必要があるのか、疑問が残ります。
海賊版問題なども含め、著作権侵害そのものは経済的損失も膨大である場合もあり、重大な問題です。
ただ、SNS上では著作権侵害にあたらない場合でも「トレパクだ」「著作権侵害だ」などと過剰な批判、これを避けるための拙速な対応もみられます。弁護士としては、こうした状況には強い懸念を抱いています。
「トレパクだ!」「著作権侵害だ!」と発信することは、場合によっては作者に対する名誉毀損・侮辱などとなるおそれもあります。
著作権侵害については専門家においても判断が異なるものもありますので、判断にあたっては慎重に対応するべきですし、著作権侵害との指摘があった場合、専門家をぜひ活用いただきたいと思います。
【取材協力弁護士】
舟橋 和宏(ふなばし・かずひろ)弁護士
芸能・エンターテインメント案件を多く取り扱うレイ法律事務所に所属。同事務所においては、マンガ・アニメ・映像コンテンツ等の知的財産権(特に、著作権・商標権保護)を多く扱う。著書として「ライセンス契約のすべて 基礎編~ビジネスリスクの法的マネジメント~(第一法規)」等。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:https://rei-law.com/

