手術を終えた寝たきりの高齢の方は、回復の過程でさまざまなリスクを抱えやすく、介護のあり方がその後の健康を大きく左右します。術後の合併症や感染症、褥瘡(じょくそう)などを防ぐためには、日々のケアや姿勢の管理、栄養状態の確認が欠かせません。また、体調の変化を見逃さず、医療機関と連携を取りながらのサポートも大切です。本記事は、寝たきり高齢の方の手術後に注意したいポイントと、介護現場で実践できるケアの工夫を、専門医の視点から解説します。

監修医師:
伊藤 規絵(医師)
旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。
寝たきり高齢者が手術後に直面しやすいリスク

手術後に合併症や感染症、筋力低下などのリスクが高まります。体力や免疫力の低下により回復が遅れることもあるため、慎重な観察とケアが必要です。
術後合併症や体調悪化のリスク
手術後に合併症や体調悪化を起こしやすい傾向があります。体力や免疫力の低下により、創部感染や肺炎、尿路感染症などのリスクが高まりやすく、治りにくい場合も少なくありません。また、長時間同じ姿勢で過ごすことによって血流が滞り、褥瘡(じょくそう)の発生もあります。さらに、食欲の低下や栄養不足、脱水などが重なると、筋力の低下や全身の衰えが進行し、回復が遅れる原因です。また、重症術後合併症のなかで少なくないのは、せん妄(発生率10%)、ついで呼吸不全(発生率8%)でした。
参照:『手術リスク 』(健康長寿ネット)
ADL(生活機能)が低下する可能性
術後の経過によってはADL(生活機能)がさらに低下する可能性があります。手術や麻酔の影響、安静期間の長期化により筋力や持久力が落ちると、起き上がりや寝返り、食事や排泄など、これまで何とかできていた動作が難しくなることがあります。また、痛みや恐怖感から身体を動かすことを避けてしまい、活動量が減ることで、関節の拘縮や廃用症候群が進行しやすいです。
さらに、せん妄やうつ状態などの精神的変化が加わると、リハビリへの意欲が低下し、生活機能の回復が遅れることも少なくありません。こうしたADL低下を防ぐためには、主治医やリハビリスタッフと相談しながら、可能な範囲で早期からの離床や関節可動域訓練、座位保持練習などを取り入れていくことが大切です。また、家族や介護者が声かけや見守りを行い、安心感を持って身体を動かせる環境を整えることも重要です。
参照:『ADL低下(日常生活動作) 』(健康長寿ネット)
QOL(生活の質)の低下による影響
術後の経過によってQOL(生活の質)がさらに低下してしまう可能性があります。痛みや身体のだるさが続くと、これまで楽しみにしていたテレビや会話などへの関心が薄れ、生活に楽しさや張り合いを感じにくくなることがあります。
また、ADLの低下により身の回りの多くを他者に頼らざるをえなくなると、「迷惑をかけているのではないか」などの負い目や無力感が強まり、抑うつ的な気分や意欲低下につながりやすいです。さらに、せん妄や認知機能の変化が加わると、環境への適応が難しくなり、不安や混乱から睡眠障害や食欲低下を招き、心身両面のつらさが増すこともあります。
寝たきり高齢者の手術後の一般的な経過

全身状態や基礎疾患の影響を受けながら、痛みやだるさが徐々に軽減し、合併症に注意しつつリハビリを進めていくのが一般的な経過です。
手術直後に起こりやすい変化
麻酔や手術の影響により、痛みやだるさ、倦怠感が強く出やすいです。そのため、血圧や脈拍、呼吸状態、尿量など全身状態を慎重にモニタリングしながら、必要な鎮痛や輸液管理が行われます。また、高齢の方は環境の変化や身体ストレスをきっかけに、術後せん妄が出現しやすく、時間や場所がわからなくなる、落ち着きがなくなる、夜間に興奮するなどの症状がみられることがあります。さらに、長時間の臥床による血流低下から、肺炎や術後肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症、褥瘡などの合併症リスクも高まるため、早期からの体位変換や呼吸訓練などに配慮しながら、慎重に状態をみていくことが大切です。
参照:
『術後せん妄 』(健康長寿ネット)
『「術後肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症」症状・病気をしらべる』(日本整形外科学会)
回復期に注意したいポイント
術後の痛みやだるさが少しずつ落ち着き、全身状態が安定してくる一方で、体力や筋力の低下が目立ちやすいです。この時期に注意したいのは、廃用症候群や誤嚥性肺炎、褥瘡などの合併症を防ぎながら、少しずつ活動量と生活の自立度を高めていくことです。具体的には、主治医やリハビリスタッフと相談しながら、ベッド上での体位変換や関節可動域訓練、座位・立位練習などを進め、可能な範囲で早期離床を図ることが大切です。
また、食事量の低下や嚥下機能の低下から低栄養や脱水に陥りやすいため、誤嚥に配慮しつつ、水分とエネルギー・たんぱく質の十分な確保も重要です。さらに、環境の変化や不安から、うつ傾向やせん妄が長引く場合もあるため、表情や会話の様子をよく観察し、声かけや安心感を高める生活リズムづくりを通じて、心のケアにも配慮していくことが求められます。
参照:『高齢者の術後早期回復のための管理栄養士の関わり*』(厚生労働省)

