日本住血吸虫症は、感染からの経過時間や寄生虫の数によって、多様な症状を示す寄生虫感染症です。感染初期の皮膚炎から急性期の発熱、慢性期の肝臓障害まで、段階的に異なる症状が現れます。ここでは感染初期に見られる急性症状と、慢性期における肝臓や消化器の症状について、それぞれの特徴を詳しく解説します。

監修医師:
小幡 史明(医師)
自治医科大学医学部卒業 / 現在は医療法人静可会三加茂田中病院、医療法人在宅会みんなのクリニック勤務 / 専門は総合診療科、腎臓内科、感染症科
日本住血吸虫症の基本的な症状
日本住血吸虫症は、感染初期から慢性期まで、段階に応じてさまざまな症状が現れる寄生虫感染症です。症状の現れ方は感染からの経過時間や寄生虫の数によって異なり、軽症から重症まで幅広い病態を示すことが知られています。
感染初期に現れる急性症状
日本住血吸虫症の感染初期には、皮膚からセルカリアと呼ばれる幼虫が侵入した際に、皮膚炎が生じることがあります。これは「セルカリア皮膚炎」とも呼ばれ、侵入部位に赤みやかゆみが現れます。この症状は数日程度で自然に軽快することが多いため、見逃されることも少なくありません。
感染から4週間から8週間ほど経過すると、急性期の症状が出現します。この時期には発熱、倦怠感、食欲不振といった全身症状が見られるようになります。これは「片山熱」とも呼ばれ、かつて山梨県の片山地方で多く見られたことからこの名がつきました。発熱は38度から39度程度の高熱となることもあり、悪寒を伴うこともあります。
急性期には腹部症状も特徴的です。腹痛や下痢が生じ、消化器系の不調を感じる方が多くいらっしゃいます。また、肝臓が腫れることで右上腹部に痛みや不快感を訴える場合もあります。血液検査を行うと、好酸球という白血球の一種が著しく増加していることが確認されます。これは身体が寄生虫に対して免疫反応を起こしている証拠といえます。
慢性期における肝臓と消化器の症状
感染が慢性化すると、日本住血吸虫の成虫が腸管の静脈に寄生し、そこで産卵を続けます。卵の多くは腸管壁や肝臓に運ばれ、そこで炎症反応を引き起こします。この過程が繰り返されることで、組織に慢性的なダメージが蓄積していきます。
慢性期の代表的な症状として肝硬変があります。虫卵が肝臓に沈着すると、その周囲に線維組織が形成され、肝臓が徐々に硬くなっていきます。これにより肝機能が低下し、腹水や黄疸といった症状が現れることがあります。肝硬変が進行すると、門脈圧が上昇し、食道静脈瘤が形成されるリスクも高まります。
大腸にも影響が及びます。虫卵が大腸粘膜に沈着することで、慢性的な腹痛や下痢、血便が生じることがあります。長期にわたって炎症が続くと、大腸にポリープが形成されることもあります。
慢性期の患者さんでは、全身の倦怠感や体重減少、貧血といった非特異的な症状も見られます。これらは寄生虫感染による栄養状態の悪化や、慢性的な炎症の影響と考えられています。適切な治療を受けないまま放置すると、生活の質が大きく低下するだけでなく、重篤な合併症につながる可能性もあります。
まとめ
日本住血吸虫症は、かつて日本国内で多くの方を苦しめた寄生虫感染症ですが、現在では官民一体の取り組みにより国内での撲滅に成功しました。しかし海外の流行地域では依然として感染リスクが存在します。症状や感染経路、治療法についての正確な知識を持ち、海外渡航時には適切な予防対策を実践することが重要です。流行地域を訪れる際は淡水との接触を避け、帰国後は健康状態に注意を払い、必要に応じて医療機関を受診しましょう。
参考文献
厚生労働省検疫所 FORTH「住血吸虫症(Schistosomiasis)」国立感染症研究所「住血吸虫症」
公益社団法人 日本WHO協会「住血吸虫症」

