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「ドングリ不作」とクマ出没の本当の関係──なぜクマは人里へ現れるのか? 出没増加の背景を科学的に読み解く

昨年は、クマの市街地への出没や建物への侵入、人身被害など、クマに関するニュースが連日のように報じられました。「なぜこれほど増えているのか」と不安を覚えた方も多いのではないでしょうか。

\ニュースだけではわからない“クマ出没のリアル”/
ツキノワグマの生態を25年以上研究してきた“クマ博士”こと小池伸介氏が、相次ぐクマ出没の背景にある原因や、クマの世界で起きている変化を科学的視点からひもとく書籍『クマは都心に現れるのか?』(扶桑社)。クマと人との関係を科学的に読み解く1冊です。

今回は、「クマの出没予測における課題」と「広葉樹を植えても出没が減らない理由」について、小池氏の解説を書籍から一部抜粋してお届けします。

ドングリ凶作予報の課題

(※画像はイメージです)

個体数管理の目的が未来の大量出没の規模の小規模化である上で重要なのが、クマの出没の予測である。秋になるといくつかの自治体は、「今年は凶作だからクマの出没に注意してください」という予報を出す。この予報はどれくらい正確なのだろうか。この鍵となるのがドングリの豊凶調査だ。ドングリの豊凶調査は、県によって実施体制が異なる。県の担当職員が直営で行っているところもあれば、林業試験場が担当しているところもあり、林業関係の組合などに委託しているところもある。調査方法や調査地点数はバラバラだが、それなりの数の調査地点を設ければ、その地域のドングリが豊作か凶作かという大まかな判断については、ある程度、正確だと考えられる。

ただし、ドングリは種類によって豊凶の判断のタイミングが異なる。例えばブナの場合、前年の秋の時点で翌年に豊凶がある程度わかる。ブナは花が咲くかどうかで果実が実るかが決まるため、前年の秋の段階で花芽ができているかを確認すれば、翌年の豊凶をある程度は予測できるのである。一方、ミズナラ、コナラ、クリなどは、花は必ず咲く。しかし、花が咲いても実がなるかどうかは別の問題で、それが判明するのは8月頃になってからだ。そのため、どこの行政も8月頃に調査を行い、公表するのは9月、遅い県だと10月から11月になってしまうのである。

ドングリの豊凶の情報を出し、住民へクマの出没について啓発するためには、発表のタイミングが大切である。ドングリの凶作は人間には変えられないし、凶作に伴うクマの行動も変えられない。ならば、豊凶の情報を早くに出すことで、人間側の意識と行動を変えること、これが出没注意報の目的だ。

『クマは都心に現れるのか?』(小池伸介/扶桑社)

例えば、「今年のドングリは凶作だから普段は来ないところまでクマが来るかもしれない。だから早めにカキを収穫しましょう」「クマとの遭遇を避けるため、散歩の時間帯とコースを替えましょう」「出没マップを頻繁に見ましょう」というように、住民一人一人の警戒レベルを上げ、クマとの遭遇を避ける行動を促す。そのためには、クマが実際に出没し始める前に、できるだけ早く情報を発表しなければならない。ところが、自治体が情報を10月や11月に発信したとしても、すでにクマが人里に出始めている。「今年はドングリが凶作でした」と後追いで発表しても、あまり意味がない。

一方、20年間にわたってドングリの凶作に伴うクマの出没を多々経験する中で、住民の側にも「また凶作か」という慣れが出てきている可能性もある。情報の出し方やタイミングだけでなく、どのように危機感を伝え、具体的な行動変容につなげるかという情報発信の工夫も行政には求められている。ドングリ豊凶予報は、個体数推定と同様、完璧な精度を求めるより、早期に大まかな傾向を把握し、それを住民の行動変容につなげることが重要である。情報発信のタイミングと方法を改善していくことが、今後の課題と言えるだろう。

広葉樹を植林しても出没は減らない

(※画像はイメージです)

クマが出没しないために、山にドングリが実る広葉樹を植林し、クマの食べ物を増やしたらいいのではないかという話もよく聞かれる。しかし、山にクマの秋の食べ物であるドングリが実る木を植えても、クマの大量出没はなくならない。むしろ出没の規模が大きくなり、より多くのクマを捕獲しなくてはいけなくなるだろう。理由としては、ドングリの豊凶は、樹齢に関係なく広範囲で同調する。したがって、新しく植栽しても豊凶はなくならない。さらに、広葉樹林を増やせばクマの食べ物を増やすことになる、数を増やすことにつながる。過去40年間のクマの状況を見てわかる通り、森が広がればクマの数は増える。

次頁の図10の上は森が少ない状況、下は森が多い状況を示す。凶作は必ず起きるので、一定間隔で食べ物の量が大きく減少する。上が近畿地方、下が東北地方と捉えてもいいだろう。森の規模が小さければ、クマの数も少なく、凶作であっても出没するクマの数は少ない。一方、森の規模が大きければ凶作時に出没するクマの数は増える。2024年の近畿、2025年の東北の出没から私たちは学んだ。クマにとっての食べ物の環境改善と出没に伴う捕獲は、必ずセットで考えなくてはならない。

上は広葉樹が少ない場合の状態を示し、ドングリの豊凶(灰色の線)は発生するが、生息するクマの数(黒色の線)が少ないので大量出没の規模は小さい。一方、下は広葉樹が多い場合の状態を示し、生息するクマの数も多くなるので、大量出没の規模も大きくなり、結果的に捕獲されるクマも多くなる。点線は理論上の凶作であっても大量出没が起きない程度の生息数。

※本記事は、『クマは都心に現れるのか?』<著:小池伸介/扶桑社>より抜粋・再編集して作成しました。

続きはぜひ書籍でご覧ください。

クマは都心に現れるのか?

詳しくみる小池 伸介東京農工大学大学院農学研究院教授小池 伸介1979年、名古屋市生まれ。東京農工大学大学院農学研究院教授。東京農工大学大学院連合農学研究科修了。博士(農学)。専門は生態学。主な研究対象は、森林生態系における生物間相互作用、ツキノワグマの生物学など。現在は、東京都奥多摩、栃木県、群馬県の足尾・日光山地、神奈川県丹沢山地などにおいてツキノワグマの生態や森林での生き物同士の関係を研究している。著書に『クマが樹に登ると』(東海大学出版部)、『わたしのクマ研究』(さ・え・ら書房)、『ツキノワグマのすべて』(文一総合出版)、『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』(辰巳出版)、『タネまく動物』(編著、文一総合出版)など。2024年よりNGO日本クマネットワークの代表も務める。→記事一覧へ
配信元: マイナビ子育て

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