適切な治療を受けないまま放置すると、日本住血吸虫症はさまざまな臓器に重篤な合併症を引き起こす可能性があります。特に肝臓における門脈圧亢進症や食道静脈瘤は生命を脅かす危険性があり、肺や神経系にも影響が及ぶことがあります。ここでは肝臓をはじめとした各臓器で生じる合併症について、その病態と症状を詳しく説明します。

監修医師:
小幡 史明(医師)
自治医科大学医学部卒業 / 現在は医療法人静可会三加茂田中病院、医療法人在宅会みんなのクリニック勤務 / 専門は総合診療科、腎臓内科、感染症科
日本住血吸虫症が引き起こす合併症
日本住血吸虫症は単なる寄生虫感染にとどまらず、長期間にわたって適切な治療を受けないと、さまざまな臓器に重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
肝臓における重篤な合併症
日本住血吸虫症における肝臓の合併症として、肝硬変が進行すると門脈圧亢進症が生じます。門脈とは消化管から肝臓に血液を運ぶ主要な血管であり、肝臓の線維化によってこの血管内の圧力が高まると、血液の流れが妨げられます。その結果、血液は別の経路を通って心臓に戻ろうとし、食道や胃の静脈が拡張して静脈瘤を形成します。
食道静脈瘤は破裂すると大量出血を起こし、生命を脅かす緊急事態となります。吐血や下血が突然起こり、ショック状態に陥ることもあります。このような状況では迅速な内視鏡的治療や輸血が必要となり、専門的な医療機関での対応が求められます。
また、肝硬変が進行すると腹水が貯留します。腹水は腹腔内に液体が溜まる状態で、腹部の膨満感や呼吸困難を引き起こします。腹水中に細菌が感染すると特発性細菌性腹膜炎という重篤な合併症となり、高熱や腹痛が生じます。さらに進行すると肝性脳症が出現し、意識障害や行動異常が見られるようになります。
その他の臓器における合併症
虫卵が血流に乗って肺に到達すると、肺住血吸虫症という病態を引き起こすことがあります。肺の血管に虫卵が詰まると、肺高血圧症が生じ、息切れや胸痛といった症状が現れます。慢性的に進行すると右心不全につながり、全身のむくみや運動耐容能の低下が見られるようになります。
まれではありますが、虫卵が脳や脊髄に到達すると神経系の合併症が生じます。脳内に虫卵が沈着すると、けいれん発作や麻痺、視覚障害といった神経症状が現れることがあります。脊髄に影響が及ぶと、下肢の麻痺や膀胱直腸障害が生じることもあり、日常生活に大きな支障をきたします。
まとめ
日本住血吸虫症は、かつて日本国内で多くの方を苦しめた寄生虫感染症ですが、現在では官民一体の取り組みにより国内での撲滅に成功しました。しかし海外の流行地域では依然として感染リスクが存在します。症状や感染経路、治療法についての正確な知識を持ち、海外渡航時には適切な予防対策を実践することが重要です。流行地域を訪れる際は淡水との接触を避け、帰国後は健康状態に注意を払い、必要に応じて医療機関を受診しましょう。
参考文献
厚生労働省検疫所 FORTH「住血吸虫症(Schistosomiasis)」国立感染症研究所「住血吸虫症」
公益社団法人 日本WHO協会「住血吸虫症」

