適応障害は、環境の変化や人間関係のストレスが引き金となって起こる心の不調です。実は、なりやすい人にはある傾向や性格の特徴があります。話し方や言葉の選び方などに表れるサインを含め、アンジェロ三田クリニックの岩谷先生に詳しく教えてもらいました。
※2025年11月取材。

監修医師:
岩谷 泰志(アンジェロ三田クリニック)
1990年、筑波大学医学専門学群(現・筑波大学医学群)卒業。京都大学医学部附属病院麻酔科で麻酔科標榜医取得。1992年、東京慈恵会医科大学精神医学講座に入局し、同大学附属病院および関連病院に勤務。2003年に心療内科・神経内科「いわたにクリニック」を開業。2022年には、医療法人社団和啓会「ペディ汐留こころとからだのクリニック(現・アンジェロ三田クリニック)」院長に就任。日本精神神経学会会員、日本精神分析学会会員。
適応障害になりやすい人の特徴・性格は?
編集部
「適応障害になりやすい性格」はあるのでしょうか?
岩谷先生
結論から言えば、「この性格だから適応障害になりやすい」という明確なタイプは存在しません。むしろ、性格よりも認知機能の偏りがどのくらいあるかが重要です。
編集部
認知機能の偏りについて、もう少し詳しく教えてください。
岩谷先生
適応障害とは、環境の変化や新しい人間関係といったストレス因子に対して、心と行動が適切に調整できなくなる状態を指します。性格とは別次元の問題であり、「物事をどう捉えるか」「相手の意図や組織の文脈を読み取る力」「状況に合わせて柔軟に行動を変えられるか」という認知の働きに強く依存しているのです。
編集部
そもそも「適応する」とは、どういう能力なのですか?
岩谷先生
適応とは、新しい環境に入ったときにその場の風土、文化、暗黙のルール、人間関係などを察し、それに合わせて考え方や行動を調整する能力を意味します。例えば、新しい上司が来たときには、その上司がどんな性格で、どんなミッションを背負っていて、自分にどんな役割を求めているのかを理解し、振る舞いを合わせる必要がありますよね。しかし、認知的な読み取りが苦手な場合、上司の意図を誤解したり、画一的に判断したり、自分なりの解釈のまま動いてしまったりすることがあります。その結果、上司やチームとの関係性にズレが生じ、本人や周囲のストレスが強まります。こうした「環境の文脈を理解しにくい状況」が適応の難しさにつながるのです。
編集部
具体的に、どのような「認知の偏り」が適応障害につながりやすいのですか?
岩谷先生
認知の偏りとは、簡単に言うと「環境の意図を読み取り、必要な行動を選ぶプロセスが苦手」という特性のことです。特に、適応障害と関係が深いのはASD(自閉スペクトラム症)です。自閉スペクトラム症の診断がつかない人でも、ASD傾向は誰にでも一定の幅で存在し、程度には個人差があるとされています。この傾向が強いと、
・暗黙のルールを察するのが苦手
・相手の意図を読み損ねる
・状況に合わせて柔軟にやり方を変えるのが難しい
・自分なりの解釈を優先しがち
などが起きやすく、組織や上司の期待とズレが生まれます。
編集部
ASDの傾向が強いと、周囲との関係性にズレが生じ、適応障害になりやすいのですね。
岩谷先生
はい。「努力しているのに成果につながらない」「人から誤解される」「コミュニケーションがうまくいかない」といった悪循環が強いストレスを生み、適応障害に至るケースもあります。
編集部
ASDの人はなぜ、環境の意図を読み取る能力が低いのですか?
岩谷先生
ASDの特性の一つとして知られるイマジネーション能力や、メタ認知能力の弱さが関係しています。メタ認知とは、自分や周囲を客観的に把握する力で、
①空間的メタ認知(その場の空気・関係性を読む)
②時間的メタ認知(“次に何が起きるか”を推測する)
という2種類があります。どちらも弱いと、上司の期待や組織の暗黙のルールをつかみ損ねやすくなり、「頑張っているのにズレていく状態」が起こります。
編集部
ほかにも、ASDの人に共通する特徴はありますか?
岩谷先生
ASDの特性には「固執性」というものもあります。これは単なる「頑固さ」ではなく、相手の意図や状況をイメージしにくいために、自分のルールに頼らざるを得ないというASDならではの脳の特性です。他者の視点を読み取りにくいと、安心できる唯一の基準が自分の考えになり、結果としてこだわりが強くなってしまいます。「自分の考えで突き進むしかなくなる状態」が続くと、上司とのすれ違いや業務の方向性のズレにつながり、適応困難を招くことがあります。
適応障害になりやすい人の「気質」とは?
編集部
認知機能の偏りのほかに、適応障害のなりやすさに関係するものはありますか?
岩谷先生
生まれつきの気質が関係することもあります。人は生まれつき3タイプの気質に分類されると考えられており、そのうち最も多いのが「優位性志向型」です。全体の約6割がこのタイプに該当するとされ、他者から評価されることで自己肯定感が満たされやすいという特徴があります。しかし、ASD的な認知の特徴があると、相手の意図や組織のルールを読み取る力が弱くなりやすく、努力しているのに成果につながりにくいという状況になることがあります。
編集部
頑張っているのに評価されないということですね。
岩谷先生
はい。例えば、上司の期待を誤解したまま頑張ってしまったり、独自の解釈で行動してしまったりと、周囲との認識のズレが生じやすいのです。その結果、「努力しているのに評価されない」という現象が起こり、優位性志向型の人にとっては自己肯定感が大きく揺らぎます。しかも、評価されない理由が分からないため、他人や環境のせいにしやすくなることもあります。こうした認知のズレとストレスの積み重ねにより、適応障害になってしまうことがあるのです。
編集部
周囲との間に認識のズレがあると、大きなストレスを抱えてしまいそうですね。
岩谷先生
そうですね。優位性志向型でよく見られるのは「頑張っているのに評価されない→理由が分からない→自己肯定感が下がる→この職場にいるのがつらい」という流れです。評価と自己肯定感が強く結びついているため、認知の偏りから「頑張りと成果が一致しない状態」が続くと精神的ダメージが大きくなります。「自分はこんなに貢献しているのに、なぜ理解してもらえないのか」という思いが強くなり、時には「他責的」な解釈になってしまうこともあります。こうした悪循環が続くと、心身の限界が近づき、「ここではやっていけない」「毎日がつらい」と感じるようになり、適応障害として症状に表れるケースが多いのです。

