『ドライブ・マイ・カー』に続き2度目の村上作品への参加となる岡田さんに、撮影エピソードや村上作品の魅力、井上剛監督のユニークなリハーサル法について、さらに韓国に撮影で訪れた際に食べた絶品グルメなどを語ってもらった。

■村上春樹さん原作の作品は「俳優として発してみたいセリフが多い」
――村上春樹さんの小説を映像化した作品への参加は『ドライブ・マイ・カー』に続いて2本目となりますが、最初に本作のお話をいただいた時の心境はいかがでしたか?
【岡田将生】最初に村上春樹さんの小説に触れたのが『ノルウェイの森』で、そのあと『ドライブ・マイ・カー』への出演が決まったタイミングで『神の子どもたちはみな踊る』も読んでいて、その時に“村上さんが書く言葉はすごく自分の中に入ってくる”と感じたんです。『ドライブ・マイ・カー』の時も思ったのですが、村上さんの作品はお芝居に関して正解がないような気がしていたので、今回の役もすごく難しいのだろうなという予感はありました。
――本作で岡田さんが演じられたパートの中で、印象に残っている言葉や大事にした言葉を教えていただけますか?
【岡田将生】小説にも本作にも登場する『からっぽ』という言葉はとても印象的というか、体内に残っていくような言葉だと感じました。ほかにも自分の中で引っかかるというか、気になる言葉が今回は多かったです。そられはすべて“俳優として発してみたいセリフ”でもあるので、あらためて今作と出会えてよかったなと思いました。

――小村の背景は劇中で具体的には描かれておらず、「なぜ妻が突然姿を消したのか」「彼の過去に何があったのか」など自分の中でいろいろと想像をしながら鑑賞していました。岡田さんご自身は小村をどのような人物だと捉えて演じられましたか?
【岡田将生】確かに、小村についての具体的な背景は語られないので、わからないことがあるとその都度「僕はこう思うのですが、みなさんはどう思いますか?」と、監督やスタッフの方々に尋ねていました。ただ、みなさんの回答が見事にバラバラで、正解がないことに気づいて。
そんな中で意識していたのは、すべてのシーンをフラットに演じるということ。きっと観る人によってそれぞれ受け止め方が違うはずなので、お芝居で大きく感情を見せることはせずに、小村のラストの表情が“からっぽ”という言葉につながることをゴールにして、そこまでは余白を意識しながら演じていました。
――演じていく中で発見したことや気づいたことがあれば教えていただけますか?
【岡田将生】撮影が進んでいく中で、“もしかしたら小村は橋本愛さん演じる未名とは結婚をしていなくて、本当は一人で暮らしてたんじゃないか。すべてが幻だったのではないか”という考えが浮かんできたんです。クランクインする前にも監督とそういったことを話しましたし、ドラマを考察する人たちのように“実はこうではないか…”と、あれこれ思考を巡らす時間がとてもおもしろく感じられて、“わからないこと”を楽しんでいる自分がいました。
そういえば、今回の現場である方から「わからないと思うことはつらくないですか?」と聞かれたのですが、僕は「わからないほうがおもしろいです」と答えました。そう思えるようになったのは30代になってからなのですが。

――20代の頃はお芝居について正解を求めることが多かったのでしょうか?
【岡田将生】20代の頃はお芝居においてはっきりとした答えを求めていたので、わりと直線的な考え方をしていたように思います。そこから経験を積んでいく中で、人間の感情や思考はもっと複雑であることに気づき、正解や答えがわからないものを楽しめるようになっていきました。30代になり、難解で複雑な作品と出会えるようになったことも大きく影響しているのかもしれません。20代の頃よりも俳優という仕事がより好きになりました。

■ユニークなリハーサル法を経験「いろいろな可能性を探っていく監督の姿が印象的だった」
――井上剛監督は事前の読み合わせに関して「最初は普通にセリフを言って演じてもらって、そのあと試しにセリフを喋らずに演じてもらったりしました」と仰っていたのですが、このやり方を経験してみていかがでしたか?
【岡田将生】例えば、部屋の中で誰かと一緒にいた場合に、一言も話さなくても仕草や表情でお互いに気持ちが伝わりますし、無言で水の入ったコップをテーブルに置くだけでもいろいろな意味を持たせられるので、セリフなしで演じても成立するとは思っていたんです。今回、監督の提案で実際にリハーサルで試してみたところ、橋本さんとただ同じ空間にいるだけで“夫婦”という形が見えて、それはすごく不思議な体験でした。
――セリフありのリハーサルと同じような動きをされたのでしょうか?
【岡田将生】そうです。セリフありの動きを考えながら、セリフなしのリハーサルを試していく中で、未名との距離感や未名を見る時の眼差しなどから小村の気持ちがちゃんと伝わったように感じて、セリフがなくても成立するのだと気づかされました。リハーサルのあと、監督も『セリフがなくてもいいな』と仰っていたのを覚えています。もしかしたら今後、シーンによっては意図的にセリフを排除してみてもいいのではないか、そんな風に思えたリハーサルでした。

――長年キャリアを積まれてきた岡田さんにとって、すごく新鮮な体験だったのですね。
【岡田将生】クランクイン前にセリフなしというユニークなリハーサルに挑戦させていただけたことはいい経験になりましたし、今後もこのやり方でリハーサルをしてみたいような気もします。まだ準備が整っていない状態で行うことが多い本読みやリハーサルは、恥ずかしい時間でもあるんです。
でも、終わってみると“恥ずかしい”という気持ちを超えて“おもしろい時間だった!”と思えることもあるので不思議だなと。今回は特にセリフなしのリハーサルというやり方が楽しかったので、それを実践してくださった井上監督のことを大好きになりましたし、チームとしていろいろな可能性を探ろうとする姿勢を感じることができてうれしかったです。

――「妻が姿を消し、失意の中訪れた釧路で UFO の不思議な話を聞く小村」「焚き火が趣味の男と交流を重ねる家出少女・順子」「“神の子ども”として育てられ、不在の父の存在に疑問を抱く善也」「漫画喫茶で暮らしながら東京でゴミ拾いを続ける警備員・片桐」のエピソードが一つの映画となった本作をご覧になってどんなことを感じましたか?
【岡田将生】ドラマでは一つひとつのエピソードとして独立していたものが1本の映画としてまとまったことで、登場人物たちの人生や日本で起きた出来事など、それぞれのつながりを深く感じられたところがすてきだなと思いました。それから、ここ一年は人生において大きな変化があったこともあり、作品の見え方が以前とは違うようにも感じました。本作では“命の尊さや儚さ”について考えさせられるようなシーンがありますが、そこがより響いたように思います。

――4つの短編を1本の映画として見事にまとめ上げた井上監督のセンスが素晴らしいと感じました。現場では監督の“こだわり”を感じる瞬間も多かったのではありませんか?
【岡田将生】限られた時間の中で、俳優やスタッフといろいろな可能性を探っていく監督の姿が印象的でしたし、その中で出てきた監督のアイデアは素晴らしいものでした。機会があればまた井上監督とご一緒したいです。

■岡田将生が最近ハマった韓国ドラマを語る
――話は変わりますが、少し前に韓国でドラマ『殺し屋たちの店 シーズン2』の撮影を終えられたことをInstagramで報告されていました。海外での撮影を経験していく中で、発見できたことやあらためて感じたことなどがあれば教えていただけますか?
【岡田将生】言語が通じなくてもお芝居はできるとあらためて実感しましたし、言語が通じないからこそ、共演者の方々のちょっとした動きや表情を見逃さないようにと意識して演じた時間はすごく楽しかったです。
『殺し屋たちの店 シーズン2』の現場を経験したことで、もっといろいろな可能性を見つけたいと思いましたし、挑戦してみたいことも増えました。いつかそれを具現化できたらいいなと思っていますし、チャンスがあればまた海外の作品に参加してみたいです。
――滞在中、韓国では何かおいしい料理は召し上がりましたか?
【岡田将生】ソウル以外のほかの地域に移動して撮影することもあったので、光陽市ではおいしいプルコギを食べて、釜山ではおいしい海産物を提供しているお店や、釜山の名物と言われているテジクッパの有名店に連れていっていただきました。ソウルでは聖水でサムギョプサルをお腹いっぱい食べることができて幸せでした。
――聖水はおしゃれなお店やカフェがたくさんあるすごく人気のエリアですよね。
【岡田将生】若い方が大勢歩いていて活気のある街でした。ただ、気になるお店はどこも大行列だったので、いつかプライベートでゆっくり聖水を満喫したいです。今回、ちょっとした空き時間にその土地で有名なものを食べる機会をいただけてうれしかったですし、おかげでハードな撮影を乗り切ることができました。

――お話しできる範囲で大丈夫ですので、ぜひ韓国での撮影エピソードをお聞かせいただけますか?
【岡田将生】アクションシーンの多いドラマなので、撮影が始まるまでの間に何度か韓国に行き、アクションの練習をして準備をしたのですが、アクションチームの方々には本当にお世話になりました。
元傭兵のジンマン役のイ・ドンウクさんともアクションシーンの撮影をさせていただいたのですが、その時にアクションの動き一手一手にいろいろな感情を込められているのを感じて刺激になりましたし、わからないことがあると優しく教えてくださいました。ほかのキャストの方々も僕のペースに合わせたり悩んでいる時に声をかけてくださったり。とても温かくて幸せな現場でした。
――ちなみに『殺し屋たちの店』をご覧になってみていかがでしたか?
【岡田将生】叔父のジンマンから「殺し屋たち御用達の武器販売店」を譲り受けた主人公がとんでもなく危険な目に遭うという(笑)…ハラハラドキドキの飽きさせない展開が見事で大好きなドラマでした。シーズン2に参加することができて本当に光栄です。
――ほかにも韓国ドラマでおすすめの作品がありましたらご紹介いただけますか?
【岡田将生】今はサスペンスドラマ『ナインパズル』にハマっています。『梨泰院クラス』でイソ役を演じたキム・ダミさんと、『殺人者のパラドックス』で刑事役を演じたソン・ソックさんが共演したドラマで、お二人のお芝居にすごく引き込まれます。『ナインパズル』を最終話まで完走したら、次は『パイン ならず者たち』を観ようと思っています。

取材・文=奥村百恵
◆スタイリスト:大石裕介
◆ヘアメイク:礒野亜加梨
衣装=シャツ/MANAVE、ネックレス(2本)/PLUIE、パンツ/Porter Classic、サンダル/Paraboot
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