親の介護が必要になったら、仕事はどうしたらいいのだろう」このような不安を抱えながらも、具体的な準備ができていない方は決して珍しくありません。十分な心構えや情報がないまま、仕事と介護の両立を迫られるケースもあります。その結果、やむをえず離職を選ぶ方もいます。この記事では、介護離職の基礎知識や主な原因を整理し、介護と仕事を両立するために知っておきたい制度を解説します。

監修社会福祉士:
小田村 悠希(社会福祉士)
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
介護離職の基礎知識

介護離職とはどのような状況を指すのか、現在どのくらいの人が介護を理由に離職しているのかなど、基本的な知識と現状を整理します。
介護離職の意味
介護離職とは、家族の介護を理由に仕事を辞めることを指します。
介護離職は、「自分で介護に専念したいから辞める」という前向きな理由だけで起こるわけではなく、仕事と介護の両立が難しく、やむをえず退職する場合も少なくありません。
介護離職の現状と増加している背景
総務省の統計によると、2022年には約10.6万人が「介護・看護」を理由に仕事を辞めています。この人数は、過去の調査と比べて増加しており、介護離職が深刻な社会問題となっていることがわかります。
介護離職が増加している背景の一つに、少子高齢化の進行があります。75歳以上の方の人数は年々増加する一方で、働き手となる生産年齢(15歳~64歳)の人数は減少しています。そのため、少ない人数で多くの方を支えなければならない状況が生まれているのです。
さらに、厚生労働省の調査によると、介護の対象となる家族は母や父といった親世代が中心で、介護を受けている方の7~8割が75歳以上であることが示されています。介護を担うのは、主に50代~60代前半の世代です。このことから、介護をする方は、仕事で重要な役割を果たしながら、同時に親の介護にも向き合わざるをえない状況にあることがわかります。
参照:
『育児・介護休業法の改正について』(厚生労働省)
『令和6年度仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書』(厚生労働省)
『そのときのために知っておこう介護休業制度』(厚生労働省)
介護離職が起きる主な原因

ここでは、介護離職につながる代表的な原因を整理し、どのような場面で仕事と介護の両立が難しくなってしまうのかを解説します。
介護制度やサービスを十分に活用できていない
介護離職の背景の一つに、介護保険サービスや両立支援制度が十分に活用されていないことが挙げられます。
例えば、訪問介護やデイサービスなどの介護保険サービスは、提供時間が限られている場合が多く、仕事の勤務時間と合わずに利用できないことがあります。
また、介護保険制度が複雑で、申請手続きや利用方法などがわからず、必要な支援を受けないままに介護を続けてしまっているケースもあります。
参照:『労働調査結果の概要』(厚生労働省)
介護の負担が特定の家族に集中している
介護の負担が特定の家族に集中しているのも、介護離職の原因の一つです。特に、同居している家族や、女性、時間の融通が効くとみなされている家族などが、介護の中心を担うケースが多くみられます。結果として、仕事を続けながら介護を抱え込み、心身ともに大きな負担を感じるようになります。
参照:『介護役割と介護負担ー要介護者と同居する家族の実態ー』(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
職場の理解や支援体制が整っていない
介護離職の背景には、職場の理解や支援体制が十分に整っていないことも大きく関係しています。総務省の調査によると、介護をしている雇用者のうち、介護休業制度を利用したことがあると答えた方は11.6%にとどまっていることが示されました。
加えて厚生労働省の調査では、勤務先の問題によって介護離職をした方の約半数が、「勤務先に介護休業や短時間勤務などの両立支援制度が整っていなかった」と回答しました。また、制度が用意されていても、「利用しにくい雰囲気がある」と感じていた方は約4割に上っています。「前例がない」「上司に言い出しにくい」「同僚に負担をかけてしまうのではないか」といった心理的なハードルが、制度の利用を妨げる一因となっているのです。
参照:
『育児・介護休業法等改正について』(厚生労働省)
『令和6年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書』(厚生労働省)
家族や周囲から退職を勧められるケースも
介護離職の背景には職場だけでなく、家族や周囲からのプレッシャーが影響していることもあります。厚生労働省の調査によると、居住する地域において、家族が介護することを求めているような風潮があると感じている人は全体の2割、離職者に限ると3割以上いました。
本当は仕事を続けたい気持ちがあっても、周囲のすすめによって退職を選んでしまうケースもあるでしょう。

