先端技術の法律問題からAI時代のキャリア論まで、幅広い分野で情報発信を続ける松尾剛行氏(BUSINESS LAWYERS AWARD 2025 情報発信部門賞、主催:弁護士ドットコム)に、発信の原動力と未来展望を聞いた。
●移動中にスマホで書籍を執筆
テクノロジーの法律問題を中心に、最新テーマの書籍を出版し続ける松尾剛行氏。これを可能としているのは、情報のインプットとアウトプットの高速サイクルだ。気になる情報はメモや資料を一元管理できるワークスペース「Notion」に入れておき、本の原稿やセミナーの資料などは、往復30分ずつの通勤時間にスマートフォンで執筆することもある。「自分の頭の中にあるエッセンスを文章にする時間が大切です。白いキャンバスを埋めるイメージです」と述べる。
積極的に情報発信に取り組むようになったのは、米国と中国留学から帰国した2016年。自身の修士論文を『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(勁草書房)と『クラウド情報管理の法律実務』(弘文堂)という書籍にしたことで、書くことに前向きになった。たくさんの実務をこなし、関連テーマの書籍を書くことで、同じ類型の悩みを抱える顧客からの相談がくるようになり、経験を積めた。「ノウハウを抱え込むのではなく、積極的に公開することで、多くの人の困りごとの解決につなげたい」というポリシーがある。
●SFと言われても、AIの可能性を信じた
数多くの著作の中でも、自信作とも言えるのが、2025年に上梓した『生成AIの法律実務』(弘文堂)だ。生成AIをめぐる法律問題について、著作権法や個人情報保護法といった主要論点から、民事手続や刑事法といった周辺分野の法律まで幅広くまとめた。生成AIの法律問題をめぐる書籍は既に多く刊行されているが、本書は網羅性の高さや現場感の強さが評価され、発売から1年経たずに4刷を重ねた。
AIのような先進的な分野は、今でこそ注目の的になっているが、松尾氏がAIやロボットを含む先端技術の法律問題に取り組み始めた2000年代初頭は、周囲から「SFの世界」と言われることが多かった。「それでもAIのように、花が開く分野があります。だからこそ、SFだと言われる時期から、種を蒔いておくことが大事なんです」と振り返る。
ポートフォリオ的な発想で、一つの分野だけでなく、複数の分野に取り組むことによって、10年後、20年後にどこかで花が開くことを狙っている。
いま注目しているのが、脳神経科学とITが融合した「ブレインテック」と呼ばれる分野だ。関心のある学者や弁護士たちとともに、共著『インターネット・オブ・ブレインズの法』(日本評論社)や学会での研究発表にも精力的に取り組むほか、今年は単著を出版予定だ。
もともと父親が大学教授だったこともあり、アカデミズムへの強い関心を抱いてきた。「小さい頃から大学が遊び場になっていたので、大学やアカデミズムは大好きです。もっと論文を出していきたい」と屈託のない笑顔を見せる。

