
結婚・出産を経て9年ぶりに出演したドラマ「ロマンスは別冊付録」(2019年)で働く30代女性の山あり谷ありの日々を共感たっぷりに演じ、イ・ジョンソクとのロマンスでも視聴者をおおいにときめかせたイ・ナヨン。そんな彼女が次回作に選んだ1話完結・各話約30分のコンパクトなヒーリングドラマ「パク・ハギョンの旅行記」(2023年)が、CS放送「衛星劇場」で3月24日(火)から放送される。誰しもが日常で感じるモヤモヤをささやかな非日常で癒やすパク・ハギョン(ナヨン)のほっこり小旅行記、その見どころに迫る。
■“今この瞬間消えてしまいたい”、そんな時…
「パク・ハギョンの旅行記」は、独身彼氏なしの国語教師パク・ハギョンと、彼女が旅先で出会う人々との小さな交流を描いたヒーリングドラマ。
ソウルで暮らし、平凡だけど生徒の気持ちに寄り添ってきた高校の国語教師・ハギョン。同じように繰り返される毎日や、生徒に思ったような言葉をかけてやれない自分にモヤモヤした時、ささいな出来事に振り回されてうんざりした瞬間…そんな、“今この瞬間消えてしまいたい”と思った時、彼女は日帰り旅に出る。

海南(へナム)のテンプルステイや群山(クンサン)のレトロな街並み、映画祭開催中の釜山(プサン)、済州(チェジュ)島でのパン店めぐりに修学旅行の思い出の地、慶州(キョンジュ)…。時には旅行を諦め、バスでソウル市内を思うまま歩く。その地の名物を食べ、そこに流れる時間と空間に身を委ね、心を解き放つ。すると毎回、偶然の出会いと予測不可能な瞬間がハギョンを待っている。
メガホンをとるのは映画「サムジンカンパニー1995」のイ・ジョンピル監督。毎話、旅するうちにハギョンが冒頭で感じていたはずのモヤモヤは消えてなくなり、ちょっと新鮮な気持ちになって帰宅する…そんな1話完結の小さな癒やしのストーリーが繰り広げられる。
■「結構です。写真、嫌いなので」
ハギョンは、周囲に迎合しない。海南の寺で出会った小説家(ソ・ヒョヌ)に「僕はそのダルマ像がお気に入りです。写真、お撮りしましょうか」と声をかけられても「結構です。写真、嫌いなので」とあっさり返し(それでも結局は撮られることになるのだが)、束草(ソクチョ)のバスターミナルで「最近の若者はそろいもそろって心が弱い」と不満をまき散らす老人(パク・インファン)には「それは違うと思います。若い世代もそれなりに大変なんです」と正直な思いを口にする。

■イ・ナヨンの自然体の魅力が導く“ささやかな奇跡”

旅というのは面白いもので、そんな風に心の赴くままに行動するハギョンの前に、ある瞬間、予期せぬ扉が開かれる。
海南の寺では雑念を捨てられず瞑想体験を抜け出し、山の中で修行中の女性(ソヌ・ジョンア)と出会う。そして、沈黙の修行を続ける彼女について歩くうち、鳥の声や風の音がよく聴こえ、松ぼっくりの香りや日光のぬくもりに神経が研ぎ澄まされていく。

一方、群山のアート個展では、教え子で駆け出しの芸術家キム・ヨンジュ(ハン・イェリ)が繰り広げる難解なパフォーマンスに観客たちは引き気味。それでも、ハギョンの“なんとか応えてあげたい、応援したい”という気持ちが、小さなギャラリーにささやかな奇跡を起こす。

どんな時も率直で、感情がそのまま表情に出るハギョン。だからこそ旅先で出会う人々も、“取り繕った顔”ではなくその奥にある本当の顔を見せ始める。それが、ささやかだが心を癒やすクライマックスを作り上げていく。「ロマンスは別冊付録」でも見せたナヨンならではの自然体のキャラクターが「パク・ハギョンの旅行記」でも存分に発揮され、旅と出会いの一つ一つがまるで自分のことのように追体験できるのだ。

■主演級キャストがずらり!豪華な各話ゲスト
旅先で出会う人々も魅力的。「エージェントなお仕事」(2022年)や「殺し屋たちの店」(2024年)のソ・ヒョヌ演じる小説家のそこはかとない胡散くささが寺と自然の清らかさを際立たせ、映画「ミナリ」のハン・イェリ演じる芸術家の繊細さと頑固さが、ハギョンの背中をそっと押す。
そのほか「D.P. -脱走兵追跡官-」(2021年)のク・ギョファンが映画祭で出会う映画監督志望の青年を、映画「新聞記者」(2019年)をはじめ日本でも活躍するシム・ウンギョンがハギョンの高校時代からの親友を演じ、高校生の制服姿も披露。さらに、シンガーソングライターのソヌ・ジョンアや「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」(2018年)のキル・ヘヨン、「ヒョンジェは美しい~ボクが結婚する理由(わけ)~」(2022年)のパク・インファンといった主演級の俳優たちが、各エピソードゲストとしてハギョンの奇妙な日帰り旅を彩っていく。

その一つ一つの旅を通して、時に自然の美しさを、時に芸術の奥深さを、時に人と人との出会いのあたたかさを再発見するハギョン。旅先で心が動いた後の余韻はさわやかで心地よく、癒やしと気づきに満ちている。頑張った一日の終わりにサクッと見られて心癒される、そして自分も小さな日帰り旅に出て見たくなる…。そんな余韻まで味わえる良作だ。
◆文=酒寄美智子

