
伊藤沙莉が主演を務め、2024年に放送された連続テレビ小説「虎に翼」。昭和の初め、女性に法律を教える日本で唯一の学校へ入学し法曹の世界に進んだ主人公・佐田(猪爪)寅子が出会った仲間たちと切磋琢磨しながら困難な時代に立ち向かい、道なき道を切り開く姿が描かれた。
そして今回、虎に翼スピンオフ「山田轟法律事務所」(3月20日[金]夜9:45-10:57、NHK総合※NHK ONEで同時・見逃し配信予定)の放送が決定。スピンオフでは、上野の片隅にある山田よね(土居志央梨)と轟太一(戸塚純貴)による山田轟法律事務所設立に当たっての知られざる物語が描かれる。
WEBザテレビジョンでは「虎に翼」、そして今作の脚本家・吉田恵里香氏にインタビューを実施。よねという人物への思い、そして作品に込めた思いを語ってもらった。
■「怒っていいんだよ」「声を上げていいんだよ」と伝えたかった
――今回、スピンオフの主役としてよねが選ばれた経緯を教えてください。
『虎に翼』の登場人物たちは、誰を主人公にしてもスピンオフが書けるつもりで作ってきました。その中でも、主人公の寅子と対になる存在として描いたのが、よねと花江(森田望智)でした。その中で、より“リーガルエンターテインメント”として描くことができるのはよねだろうと思いましたし、私自身もよねと轟の活躍をもっと見たかった。そして何より、多くの方から「あの二人の話が見たい」と言っていただいた実感があったので、自然とよねが主人公になる空気感がありました。執筆中から「続きをやりたいね」という話は制作陣とずっとしていたんです。
――今回のスピンオフでは「正しく怒る」「正しく不機嫌でいる」という言葉がありました。ここに込めた思いを教えてください。
これは本編にも共通するテーマですが、今の社会では「怒ること」や「怒って声を上げること」がなぜかネガティブに取られがちですよね。感情的だとか、怒ったら負け、といった謎の理屈がある気がしていて、私はそこにすごく暗いものを感じているんです。なぜその人が怒るのかという歴史と構造を理解せずに、「怒ること」をネガティブなものと決めつける社会に対して、「怒っていいんだよ」「声を上げていいんだよ」ということを改めて伝えたいという思いがありました。
――「正しい」という言葉の使い方が印象的です。
「怒る」という言葉からイメージするものは人それぞれです。不機嫌を撒き散らしたり、理不尽に誰かを踏みつけたりすることではなく、『虎に翼』における怒りとは「声を上げて社会を変えたり、誰かを守るために使うもの」であってほしい。一歩間違えると自分勝手な攻撃になってしまうからこそ、よねの姿から“正しい怒り”が伝わってほしいなと。それはよねにしかできないことだと思いました。
■土居志央梨さんは作品に対して本当に誠実な方
――主演の土居志央梨さんとは、どのようなディスカッションをされましたか?
スピンオフ決定後にお会いした際、「楽しみです」といったお話はしましたが、特別なディスカッションはしませんでした。土居さんがすごく作品を大事にしてくださる方だという印象を持っていましたので、脚本も私からの一方的なラブレターのような気持ちで書いたんです(笑)。こういうよねさんが見たい、こういう土居さんが見たいなという気持ちが大きかったです。
よねは本編では“曲げない、折れない、間違えない”人として描きましたが、そんな人は現実には存在しない。よねだって折れそうになったことはあるはずです。ただ、落ち込んで弱くなっていく姿を書くというよりは、折れないために怒りを燃料にして必死に前に進む姿を書きたかった。怒りがどんどん加速していくようなよねを書きたいと思っていました。
――土居さんの魅力を、どのようなところに感じていますか?
土居さんは、作品に対して本当に誠実な方だという印象が強いです。よねという役は、演じる上できっと相当なエネルギーを使い、精神的にもしんどい部分があると思うんです。それでも、その重みにポジティブに向き合ってくださる。その誠実さとよねというキャラクターの親和性が、土居さんの大きな魅力だと感じています。


■よねは、寅子と出会えて本当によかったと思います
――今回、スピンオフでよねを深く描き、吉田さんの中で彼女の見え方に変化はありましたか?
よねは自分からは動けない人なんだな、と書いている中で改めて感じました。これまでは、寅子がよねに寄り掛かり、恩恵を授かっている面が強調されがちでしたが、実はよねも寅子に寄り掛かり、救われている部分がたくさんあったんだなと。執筆を通して、二人の関係性を改めて言語化できたことで、私の中でも彼女たちの関係性がよりキラキラと輝く尊いものになりました。よねは、寅子と出会えて本当によかったな…という不思議な感慨がありました。
――物語の中、寅子も印象的な形で登場します。
スピンオフを作る以上、やはり寅子はどこかで登場させたいと思っていました。ただ、物語の状況を考えると、普通に登場させると少し重くなってしまう気がしたんです。そこで、少しユーモアのある形で登場してもらうことにしました。よねの視点を通して、二人の関係性も見えてくるような場面になっていると思います。
――舞台を終戦直後の混乱期に設定された理由は?
本編では唯一寅子が知らない、つまり視聴者が知らない、よねと轟のタッグがどう生まれたのかを描くことに意味があると思ったからです。そして本編において、寅子の人生の中では描けなかった生活のために身体を売らざるを得なかった女性たちの姿などを、きちんと描きたかった。憲法14条(法の下の平等)を掲げている作品の中で、本編では取りこぼしてしまったものをどれだけ入れられるかということが、自分自身に課した課題でもありました。よねは、寅子のように恵まれているマジョリティ側の人間から見える世界とは違う地獄を見てきたはずです。第14条に対する重みや思いも違うだろうと、思いを馳せて書きました。
■声を上げるべき時は共に上げ合っていけたら
――吉田さんにとって『虎に翼』はどのような存在ですか。
間違いなく現時点での代表作です。作家を辞めてもいいと思えるくらい(笑)、すべてを書き切れたと思います。これからも自分が書く物語に誠実に、面白いものを書くことを頑張っていきたいですし、またいつか、誰かが「スピンオフをやりませんか」と言ってくれる日が来たらいいなと思います。
――最後に、作品を楽しみにしている視聴者へメッセージをお願いします。
まずは、本当にありがとうございます。スピンオフが作られるということは、その作品自体が応援され、誰かの支持を得ていないと無理なことです。本編が終わって2年近くが経つ中で、こうして応援し続けてくれている皆さんの力があったからこそ、この物語は生まれました。
今、世界中で戦争が起き、平和や平等が遠のいていくような時代です。だからこそ、腹を立てるべき時は腹を立て、声を上げるべき時は上げる。エンタメにできる力を私は信じていますので、このスピンオフが、今しんどい思いをしている人に寄り添えたり、声を上げる力になったらいいなと願っています。
そして皆さんも私もお互いに元気で、健康で。なるべく心を削りすぎずに、声を上げるべき時は共に上げ合っていけたらいいなと。スピンオフもこの先に公開を控える映画も、楽しんでいただけたらうれしいです。


