深夜バラエティ番組の収録で男性共演者から性的な言動を受けたにもかかわらず、テレビ局が安全配慮義務を怠ったとして、フリーアナウンサーの女性が、TBS系列局「あいテレビ」(愛媛県松山市)に慰謝料など計約4100万円の損害賠償を求めた訴訟。
その第1回口頭弁論が10月3日、東京地裁で開かれた。期日後に開かれた報告会で、原告代理人は、テレビ局側は請求棄却を求めたうえで「演出だった」などと反論していると説明した。
●「視聴者からクレームなし」「演出だった」局側の反論
訴状などによると、番組は2016年4月から2022年3月まで収録・放送された。
進行役をつとめた原告女性は、飲酒した芸能人や僧侶の共演者から計37件のセクハラを受けたと主張。それにも関わらず、局はそれを放置したと主張し、結果として女性はPTSDによる重度「うつ」と診断され、今も働けない状態だという。
この日の弁論期日では、女性側が意見陳述。今後は争点整理が進められ、次の口頭弁論は年明けになると見込まれる。
原告代理人らによると、あいテレビ側は共演者らの言動については認めるものの、その評価については争うとしているという。
原告代理人の雪田樹理弁護士は「原告は番組のプロデューサーらにたびたび改善を申し入れましたが、あいテレビは『原告の申し出に気がつくことができなかった』と反論している」などと説明。
さらに、局側は訴訟の中で「番組に対する視聴者からのクレームがなかった」「演出だった」といった主張を展開しているという。
番組はTBSの看板報道番組『news23』の後に放送されることもあり、深夜帯にもかかわらず高視聴率だったとされる。
あいテレビは、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「担当者不在」としている。
なお、原告は裁判に先立ち、放送倫理・番組向上機構(BPO)へ申し立てたものの、BPOは「人権侵害は認められず、放送倫理上の問題もあるとは言えない」とする見解を示していた。

民放労連中央執行委員長で、四国放送(徳島県)の石田崇さんは「BPOのありかたにまで疑問を呈する裁判となるので注目している」と語った。
●涙ながらにうったえた女性アナ
原告の女性は法廷で「逃げ場のない状況で、唐突に性加害を受け、見せ物のように嘲笑され、それを公にさらされる耐えがたい体験は、決して忘れられるものではありません」と涙声になりながらもハッキリした声でうったえた。
「メディア・エンターテインメント業界には、私のような経験をしている人がたくさんいます。選ばれなければ仕事が得られないというプレッシャーに常にさらされた弱い立場で、仕事を続けるために口を閉ざすことを強いられている人が、本当にたくさんいます。こんなことが続くことがないように、私は人生を賭けて提訴する覚悟を決めました」(意見陳述より)
(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

