
町の隅々まで郵便物を配達して回る現役の郵便局員が、実際に経験した不思議な話や怖い話を漫画化した送達ねこ(@jinjanosandou)の『郵便屋が集めた奇談』が反響を呼んでいる。「配達があるので怖がってばかりもいられず、ただただ怪異に出合う郵便局員たちの話」だと著者は語る。同僚たちの体験を漫画化していくうちに、著者のもとには他局からも体験談が届くようになった。今回紹介するのは、漫画のことを耳にした他局の配達員から届いた一通の長い手紙を元にしたエピソードだ。「やりきれない事件で誰にも話すつもりはなかった」という言葉から始まる手紙には、長く重い物語が綴られていた。



関東の郵便局で社員として働く著者には、漫画を描き始めてから怪異現象の体験談が数多く寄せられるようになった。しかしそれは単なる情報提供ではなく、答えの出ない思いを打ち明ける悲痛な叫びのようなものだという。たとえば霊体験であっても、それが同僚や知人の霊であれば、怖いという感情よりも言葉を交わしたいという気持ちが勝る。かつて親しく話し笑い合った時間が確かにあるのに、なぜもう会えないのか。恐怖よりもそうした理不尽さや不思議さが、体験者本人の本筋になっていると著者は分析する。死は日常にあるのにその後の世界は全く見えず、大変もどかしく大きな謎だからこそ、著者も体験者と一緒に考えたくなり、答えの出ない問いを共有するために漫画を描き続けているのだ。
本作には過酷な職場で命を落としたW先輩が登場する。読者からは「W先輩のためにできることは何だったのか、判断が難しい」といった声や、物語のラストで「生きるための仕事でなぜ職員が病む、なぜ職員が死ぬ」と絞り出すように吐き出された言葉に涙があふれたという感想が相次いだ。ただのホラーではなく、人を壊す労働環境への怒りと遺された者の激しい後悔が、読む者の胸を切なさで締め付ける。日本のどこかの町でひっそりと起こっている怪異の裏には、現代社会の過酷な労働というリアルな闇が潜んでいるのかもしれない。
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